産業スパイ騒動から10日ほど経ったある日、私は社長のお招きで高級料亭に来ている。ご主人様と産業スパイの件を解決した事に対する慰労という名目らしい。
テーブルを挟んで私の正面に舞が座り、その横に舞の夫の社長が座っている。ちなみに私の横は不在。本来はご主人様が座っているはずだったのだけど、忙しくてまだ来れないらしい。あるいは来ないかも。
あれから2日後にご主人様は退職し、私は元の職場に戻った。と言っても元の担当には戻れず、社員の給与計算を担当するらしい。私は我儘を言い、昨日まで年休を取らせてもらい、職場復帰は今日だった。
「恵子、今日からだよね? 新しい仕事は慣れそう?」
「まだわからない。何だか、新入社員に戻った気分だわ」
「大変だね。それはそうと、本阿弥さん、来れるといいね?」
「え? どうせ来れないんじゃない? お忙しいらしいから」
ご主人様が退職してから、彼からの連絡は1回も無い。私からもしてないのだけど。私とご主人様の関係は、このまま自然消滅すると思う。
「ねえ、直哉さん。本阿弥さんは何で忙しいのか知ってるの?」
舞が社長に聞いてくれて、私は顔には出さないようにしつつ、内心は社長の返事に興味深々だった。と言うのは、舞を通じてご主人様は忙しいとは聞いていたけど、何をやってて忙しいのかは聞いていないからだ。
「知ってるけど、口止めされてるんだ。すまない」
社長の返事を聞き、私はがっくりと肩を落とした。ご主人様のヤツ、何やってるんだろう……
「恵子、お酒飲んで元気出してよ? お料理も美味しそうだよ?」
「舞がウーロン茶を飲んでるのに、私だけ飲めないよ」
舞のお腹には赤ちゃんがいるから、お酒は飲めない。
「そう言わずに、飲んでください。舞の分は俺が飲みますから」
「はい、すみません」
私は社長にお酌してもらい、日本酒をチビっと飲んだ。
舞や社長に気を遣わせてしまって申し訳ないのだけど、私の気分は落ち込むばかりでどうしようも無かった。原因はもちろん、”ご主人様ロス”だ。彼が退職して以来ずっと続いていて、未だに回復の兆しはない。
はあー、来なきゃ良かったかなあ、と後悔し始めた時、
「遅くなってすまん」
ご主人様がやって来た!
テーブルを挟んで私の正面に舞が座り、その横に舞の夫の社長が座っている。ちなみに私の横は不在。本来はご主人様が座っているはずだったのだけど、忙しくてまだ来れないらしい。あるいは来ないかも。
あれから2日後にご主人様は退職し、私は元の職場に戻った。と言っても元の担当には戻れず、社員の給与計算を担当するらしい。私は我儘を言い、昨日まで年休を取らせてもらい、職場復帰は今日だった。
「恵子、今日からだよね? 新しい仕事は慣れそう?」
「まだわからない。何だか、新入社員に戻った気分だわ」
「大変だね。それはそうと、本阿弥さん、来れるといいね?」
「え? どうせ来れないんじゃない? お忙しいらしいから」
ご主人様が退職してから、彼からの連絡は1回も無い。私からもしてないのだけど。私とご主人様の関係は、このまま自然消滅すると思う。
「ねえ、直哉さん。本阿弥さんは何で忙しいのか知ってるの?」
舞が社長に聞いてくれて、私は顔には出さないようにしつつ、内心は社長の返事に興味深々だった。と言うのは、舞を通じてご主人様は忙しいとは聞いていたけど、何をやってて忙しいのかは聞いていないからだ。
「知ってるけど、口止めされてるんだ。すまない」
社長の返事を聞き、私はがっくりと肩を落とした。ご主人様のヤツ、何やってるんだろう……
「恵子、お酒飲んで元気出してよ? お料理も美味しそうだよ?」
「舞がウーロン茶を飲んでるのに、私だけ飲めないよ」
舞のお腹には赤ちゃんがいるから、お酒は飲めない。
「そう言わずに、飲んでください。舞の分は俺が飲みますから」
「はい、すみません」
私は社長にお酌してもらい、日本酒をチビっと飲んだ。
舞や社長に気を遣わせてしまって申し訳ないのだけど、私の気分は落ち込むばかりでどうしようも無かった。原因はもちろん、”ご主人様ロス”だ。彼が退職して以来ずっと続いていて、未だに回復の兆しはない。
はあー、来なきゃ良かったかなあ、と後悔し始めた時、
「遅くなってすまん」
ご主人様がやって来た!



