今日から私は上司の奴隷になりました

やはり加藤ミユキさんが産業スパイだった。そして、彼女が手にしているスマホにはその証拠がある。仮に過去の証拠を消していたとしても、今の会話履歴だけで証拠としては十分だと思う。

ご主人様と私は、素早くジェスチャで打ち合わせをした。その結果、ご主人様が加藤ミユキさんの動きを制し、その間に私が彼女の手から彼女のスマホを奪い取る事になった。

私達は口パクで『いっせえのせ！』と声を掛け、二人同時に行動を起こした。

「あんたを産業スパイ容疑で確保する！」
「放せ清掃員！」
「俺は探偵だ」
「スマホを返せ新人！」
「総務を舐めないで！」
「こうなたったらこうだ！」
「あ、スマホが……」
「ゲット！」
「ナイスキャッチ！」

私達３人は揉み合い、加藤ミユキさんが私の手から自分のスマホを奪い取り、近くのドブ川目掛けて投げた瞬間、ご主人様が空中でそれをキャッチし、見事に容疑者の加藤ミユキさんと、証拠となる彼女のスマホを無傷で確保した。

私達は社長に顛末を報告し、110番通報をした。
加藤ミユキさんと斯波繁男さんはパトカーで警察に連行され、ご主人様と私は、ご主人様の車で警察署へ行き、長い事情聴取を受けた。

ご主人様が言うには、加藤ミユキさんが窃盗罪で起訴されるのはほぼ確実。情報を買ったＴ社が不正競争防止法違反に問われるかどうかは今後の捜査や調査次第。それと並行してうちの会社からＴ社に向けて民事訴訟を起こす事になるらしい。

なお、斯波繁男さんが罪になる事は無いが、会社から何らかの処分はあるだろうとの事。ただし過去の実績が考慮され、あまり重い処分にはならないだろうとの事だった。

ひとつはっきりしているのは、これでご主人様の任務は終了し、ご主人様と私の上司と部下という関係は、終わったという事だ。