今日から私は上司の奴隷になりました

「行くぞ!」
「はい!」

ご主人様は車から飛び出して勢いよく駆け出し、私もその後に続いた。

斯波繁男さんらしき男性には、アパートの階段の下で追い付いた。その男性は、私達に気付きギョッとした顔をした。

「斯波繁男さんですよね?」

「そうっす。そちらは、清掃の人と食堂の人っすよね?」

「これは仮の姿で、私はこういう者です」

ご主人様はそう言って、ジャンパーの内ポケットから名刺入れを出し、引き抜いた名刺を斯波さんに渡した。

私も正体を名乗った方がいいのかな。まあ、いいか。

「探偵さんっすか? で、俺に何か?」

「はっきり言います。貴方には、産業スパイの容疑が掛かっています」

「さ、産業スパイっすか!?」

斯波さんは、すごく驚いた様子だった。とても演技には見えないと思った。

「違うんですか?」
「違うに決まってるす」

「それを証明出来ますか?」

「してない事の照明は難しいっす」

確かに、そうね。

「部屋に上がらせてもらっていいですか?」

「散らかってますけど、どうぞ」

という事で、私達は斯波さんに続いて階段を上がり、部屋に上がらせてもらった。部屋の中は、本人が言うほど散らかってはいなかった。

「何でも調べてくれて構わないっす」

「じゃあ、このパソコンを見せてください」

「いいっすよ」

斯波さんは、今どきは珍しいタワー型のパソコンのスイッチを入れた。液晶のディスプレイは大きくて、たぶん20インチぐらいあると思う。斯波さんって、見掛けもそうだけど、パソコンとか機械のオタクなんだと思う。

「まあ座ってください。PCの立ち上がりには時間が掛かるっす」

そう言って斯波さんは私達に座布団を出してくれて、私達はその上に座らせてもらった。私は正座は苦手なので、お姉さん座りで。

「お茶を飲みますか?」
「いえ、お構いなく」

「そっすか」

さっきから思うのだけど、私には斯波さんが産業スパイとは思えなかった。言葉使いは変わってるし、見掛けはオタクっぽい人だけど、嘘を吐いたり、仲間を裏切るような人とは思えなかった。