今日から私は上司の奴隷になりました

出発する時間になり、私達はホテルを出て車に乗り込み、ご主人様はカーナビの目的地に斯波繁男さんの住所を設定した。

車を走らせ、十数分で斯波繁男さんが住んでいるらしい2階建てのアパートに着いた。そこから程近い路地に車を停め、住所から彼の部屋と思われる2階の部屋を見ると、窓に明かりが点いていないので、彼はまだ帰ってないと思う。ちなみにコンビニは、通りに出て50メートルほど先にあった。

「彼は真っ直ぐ帰って来ますかね?」

「それはどうかな。残業の可能性はあるし、今日は金曜だから飲んで帰るかもしれない」

「ですよね……」

私はこの機会に、ご主人様に聞いてみようと思った。このところ気になっている事を。

「この件が解決したら、ご主人様はどうするんですか?」

「それはもちろん、元のフリーに戻るだけだ」

「このまま、うちの会社で働く、なんて事は……」

「それはない。そもそも、俺は会社勤めが嫌だからフリーの探偵をしてるんだ」

やっぱりそうだよね。つまり、この捜査が終われば、ご主人様と私の関係も終わるって事だ。なんか、悲しくなっちゃうな。

「弁護士とか検事には、ならないんですか?」

「俺が司法試験に受かってるって、よく知ってたな?」

ご主人様は驚いた様子で私に顔を向けた。

今のはまずかったかな。舞に口止めされてたら、後で怒られちゃう。と心配したけど、ご主人様は「まあいいや」と言い、アパートの方に視線を戻した。

「今更そういうのは面倒臭い。特に検事になるのは大変なんだぞ? そもそも、俺は探偵が好きなんだ」

「じゃあ、フリーは止めて、探偵事務所を開くお考えはないんですか?」

私ったら、ご主人様に安定した職業に就いてもらいたいと思ってるんだわ。なぜかは解ってるけど、口には出せない。

「それは、まあ……来た!」

ご主人様の、『それは、まあ』に続く言葉が気になりつつも、私もアパートの方に目をやると、黒っぽいジャンパーを着た男性が、自転車でアパートに帰って来たところだった。おそらくは、斯波繁男さんだと思う。