今日から私は上司の奴隷になりました

私は2階のベンチに座って待ち、清掃の仕事が終わって戻って来たご主人様に、その2つの成果を早速報告した。

「名前はどうしても聞き出せませんでした」

「いや、その2つだけでも大きな成果だ。実は俺の方でもちょっとした情報をゲットしたんだ。朝、ロッカールームでモップがけをしていたら……」

ご主人様がモップがけって、イメージできないなあ。

「『おまえ、腹が出て来たな。彼女に旨いもん、作ってもらってるからか?』って言った男がいて、言われた男が、『そうかもしれないっす』って言ったんだ。黒縁眼鏡の男だった」

『そうかもしれないっす』!?

「それよ! その男性に間違いないと思う。その人の名前は判ったんですか?」

「判らない。名前が判れば早いんだがな……」

名前が判らないのでは、操作が先に進むとは思えず、今日はここまでかな、と思ったのだけど、

「あ、そうだ。神徳に聞けば判るかもしれない」

とご主人様は言い、社長にラインを送った。

「社長にどんなメッセージを送ったんですか?」

「開発部の男で、黒縁の眼鏡を掛けて、『旨いっす』とか『そうかもしれないっす』と話す奴が誰か判るか、って聞いた。神徳は開発部の人間を熟知してるから、あいつなら判るかもしれない」

「なるほど。判るといいですね!」

「ああ、そうだな。あいつの返事を待とう?」

「はい。もし名前が判ったら、どうしますか?」

「ホテルに戻り、恵子が作ってくれた”A表”でそいつを検索し、住所が判ったらそいつの家に乗り込む」

「うわあ、楽しみですね!」

「ああ。だが、恵子は留守番な?」

「え? 何でですか?」
「おまえを、危険な目に合わす訳には行かないからだ」

ご主人様はそう言って、私を真剣な目で見た。そんなご主人様の気持ちは嬉しいのだけど、私も行きたいと思った。なんとしても。

そうこうしている内に、ご主人様のスマホにラインの通知が来た。そしてご主人様はスマホを見て、

「開発部サブマネジャーの『斯波繁男(しばしげお)』という男らしい」

と呟いた。