今日から私は上司の奴隷になりました

カツカツとハイヒールの音をさせ、私は彼の側へ行った。

「あのー、隣に座ってもいいかしら?」

目をパチクリさせて彼に問うと、彼はゆっくりと私を向き、

「どうぞ、構いませんよ」

と、低い声で言った。素敵な声だなと思った。私は、男の人の低い声に弱い。逆に声が高いと、例え顔が良くても冷めてしまうの。

私は彼の右隣りの椅子に腰掛け、脚を組んだ。

「何を飲んでらっしゃるの?」

「ワイルドターキーの水割りです」

彼はそう言いながら、私の胸の谷間付近に視線を落とした。

「バーボンね? 私、バーボンって飲んだ事ないの」

私は彼の視線に気付かぬ振りをし、むしろ胸の谷間を強調すべく、彼に向けて体をよじった。さり気なく、ほんの少しだけど。

「飲んでみますか?」
「ええ」

「マスター、この方に同じ物をお願いします」

「ありがとう」
「どういたしまして」

至近距離で見る彼は、更に素敵だなと思った。濃いめの眉は男らしく、やや細めの一重瞼の目は冷たい光を放ち、唇はやや薄め。全体を一言で表すなら、自信に満ちた凛々しいお顔、かな。

マスターが私の前にワイルドターキーの水割りを置いてくれ、私はそのグラスを持つと、彼のグラスとカチンと合わせた。

そして、一口飲んでみたのだけど……

「癖が強いでしょ?」
「ええ、確かに。でも、好きになりそう」

実際のところ、私はそう思った。バーボンを飲む女って、渋くて、格好いいかも。