今日から私は上司の奴隷になりました

「新型エンジンのコードネームだ。コンセプトは『俺は水しか飲まねえ』だ。昨日、神徳が企画書を提出したばかりの新しいプロジェクトさ」

「それって、水で走る車って事ですか?」

「そうらしい」
「実現したら凄いですけど、そんな事、可能なのかしら」

「水で車が走るわけないだろ? 産業スパイを釣り上げるための、エサさ」

「ですよね。でも、そんな夢みたいな事、誰も信じないんじゃないですか?」

「それが、そうでもないらしいぞ。神徳が言うには、水を電気分解して水素を取り出し、それを爆発させるとか何とかで、あいつ自身、90パーセントは冗談だが、残りの10パーセントは本気っぽい」

「へえー、そうなんですか?」

「ま、俺には開発者の考えは理解できないが、侮れないと思う。誰も廃油で車が走るなんて、思ってなかった訳だし」

「確かに」

「ところで、朝飯は食ったのか?」
「いいえ、食べてないです」

「俺もだ。そばでも食うか?」
「はい、ぜひ」

という事で、私達は高速道路のサービスエリアに寄り、ご主人様はかき玉そばを、私はサンドイッチを食べた。

かき玉そばを啜るご主人様は、顔さえ見なければ、どこにでもいる普通の地味な男性にしか見えず、さすがは探偵さんだなあと、変に感心する私だった。