今日から私は上司の奴隷になりました

その翌日の夕方、私は”A表”の作成を終える事が出来た。つまり約50名の調査を、期限より1日早い2日で終える事が出来た。

「二日で出来るとは、流石だな」

それをご主人様に告げると、彼に褒めてもらえた。

「総務を舐めないで」

「はあ? 奴隷のくせに、生意気な事を言うな!」

「だって……グス」

やだ、ご主人様に怒られたら、また泣けて来ちゃった。

「泣くな。泣くのは禁止と言ったはずだ」

「だって……グス」
「”だって”の後は何だ?」

「私の口癖だから、つい出ちゃうんだもん」

「”総務を舐めないで”がか?」
「うん」

「口癖なら仕方ないか……」

ご主人様はそう言いながら、ズボンのポケットに手を入れた。またハンカチを私に貸してくれるのかなと思ったら、銀紙に包まれた何かを取り出した。

「総務じゃなくて、これを舐めろ」

ご主人様から手渡されたのは、去年、惜しまれつつ販売を終了した、懐かしのキャンディだった。
それにしても、ご主人様ってジョークを言える人なんだ。そう思ったら可笑しくて、私は「うふふ」と笑ってしまった。

「今度は笑うのかよ。俺はおまえのキャラを、掴み切れない」

それはこっちも同じです、ご主人様。

「明日から出張に行くから、準備しておけ」

へえー、ご主人様は出張に行っちゃうのか。残った私は、何をすればいいんだろう……

「何を準備するんですか?」

「当面必要な物をバッグに入れておけ。替えの下着とか、その他色々だ。女性の持ち物はよくわからん」

「私が行くんですか?」
「”私が”じゃない、”私も”だ。俺と一緒に行ってもらう。行き先は、静岡の開発工場だ」

ああ、そういう事ね。つまり、産業スパイを捕まえるために、”現地”に乗り込むんだわ。

「替えの服とか靴とかは持って行くな。途中で俺が買ってやる」

「それって、変装するって事ですか?」

「ほお、よく解ったな」
「総務をな……」

おっと、また怒られちゃう。

「おまえ、俺達の業務が何か、気付いたみたいだな?」

「はい。産業スパイを捕まえる事ですよね?」

「まあ、そういう事だ。厳密には、捕まえるのは専門家に任せて、俺達は探すだけだがな」

ちぇっ。舞が正解だったかあ。