今日から私は上司の奴隷になりました

午後からご主人様はどこかへ行ってしまった。

課長部屋で一人になり、寂しい気持ちになった私だけど、気を取り直して仕事に集中する事にした。

むしろご主人様がいない事が幸いし、仕事は思いの外はかどり、定時の少し前に、約50人分の基本情報の入力を終える事が出来た。

私が帰り支度を終えると、それを待っていたかのようにご主人様が戻って来た。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「お、おお」

「どこへ行ってたんですか?」

「はあ? どこだっていいだろ。奴隷の分際で、一々聞くな」

お昼はちょっと優しいと思ったのに、ご主人様はやっぱり俺様で意地悪だ。なんだか、悲しくなっちゃった。

「なにも、泣く事はないだろ?」

え? 私、泣いてるの?
気付けば、涙が頬を伝って落ちた。

こんなの、私じゃない。本来の私なら、怒る事はあって、泣くわけない。
私、どうなっちゃったんだろう。

「社長と打ち合わせしてた。ほら、これを使え」

ご主人様はそう言って、ズボンのポケットから紺色のハンカチを出してくれた。

「ありがとうございます」

お借りしたハンカチで涙を拭いながら、私は頬が緩むのを覚えた。ご主人様が優しくしてくれて、嬉しいからだ。

今の私って、本当におかしい。ああ、あれかな。大昔に流行った歌だけど、”恋の奴隷”ってやつ。たぶんそれだわ。

「今後は、俺の前で泣くのを禁止する。わかったか?」

「はい、ご主人様」

今も怒られて喜んでるんだから、私って本当におかしい。なんて、呆けてる場合じゃないか。

「ご主人様、定時で帰っていいですか?」

「3日の期限が守れるなら、いいよ」

「その目途が付きましたので、帰ります。お先に失礼します!」

私はご主人様にお辞儀をし、課長部屋を出ようとしたのだけど、

「ちょっと待て」

ご主人様に呼び止められた。何だろう、と思ったけども、

「返してくれ。俺のハンカチ」

なんだ、そんな事か。

「汚しちゃったので、洗ってお返しします」

「いや、それがいいんだ」

「え?」
「あ。いいから返せ」

ご主人様に、ハンカチを引っ手繰られてしまった。

もしかして、ご主人様って……変態なのかも。