今日から私は上司の奴隷になりました

午前はデータベースの基礎作りで終わってしまった。つまりテーブル、フォーム、クエリを作ったのだけど、データベースソフトを使うのは久しぶりだったので、思いのほか手こずってしまった。

午後からは基本情報を入力して行く予定。これは私の得意分野だから、割とスムーズに出来ると思う。

「おい、昼飯食いに行くぞ」

私が昼食に行こうとしていたら、ご主人様から声を掛けられた。でも、今日のお昼は久々に舞と約束してるので、

「友人と先約があるので、ご主人様とは行けません」

と断ったのだけど……

「おまえ、俺の奴隷だって事、忘れてないか?」

「そんな事はありません」
「だったら、その友人を断れ」

え? 嘘でしょ? いくらなんでも、そんなこと言う?
あ、そうだ。ご主人様は、社長には弱いはずだわ。

「約束した友人は、社長夫人の舞ですけど、彼女を怒らせてもいいんですか? 社長に言い付けるかもしれませんよ?」

「構わない」

ダメだったかあ。しかも即答? ドヤ顔をする暇もなかった。

「そもそも、ご主人様に断りもなく予定を入れたおまえが悪い」

はいはい、わかりました。もう、俺様なんだから……

「わかりました。舞にお断りの電話を入れます!」

私は課長部屋を出て、ドアをバタンと閉めて、ドアに向かってあっかんべえをした。あの男には見えないから、意味ないんだけど。

私は内線携帯で、舞の番号に電話を掛けた。

『もしもし、恵子?』
「うん。もうロビーに行ってるの?」

『うん、今来たところー』
「悪いんだけどさ、舞と行けなくなっちゃったの」

『何かあったの?』
「ご主人様がさ……」

『恵子って、いつの間に結婚したの?』

「結婚? ああ、そうじゃなくて、その辺の話も聞いてほしいから、今夜、飲みに行かない? 新婚のところ悪いんだけど」

『ん……たまには、いいか。行こう行こう。定時でいいの?』

「うん、定時でいい。ほんとに、ごめんね?」

『いいって。じゃあね』

今日は何としても定時で帰ってやる。ところで、”いいって”って、社長の口癖じゃなかったっけ?
やっぱり夫婦だと、うつるんだろうなあ、そういうの。なんか、羨ましい。