今日から私は上司の奴隷になりました

「あのー、基本的な疑問なんですが、個人情報は調べるまでもなく、会社のデータベースにアクセスすれば良いのでは?」

「それは真っ当な指摘だが、的外れだ」

「と言いますと?」

「この会社のデータベースは一元化されてないし、データベース化されてない項目もある。俺が見たい項目を言うから、メモしてくれ」

「はい」

私はメモ帳とボールペンを用意した。

「まずは基本情報だな。氏名、住所、電話番号、メアドなどだ。後は入社日、学歴、職歴、異動履歴、給与、給与口座、プロジェクト参加記録、だ」

え? そんなにあるの?

「あの、人事データのアクセス権は……」

「大丈夫だ。全部付けてある」
「ですよね」

「データベースソフトは得意なんだろ?」
「はい」

これ、ちょっとした私の自慢なの。でも、ご主人様はよく知ってたわね。私、調べられたのかしら。

「学歴と職歴は履歴書を見る事になりますが、最終の履歴でいいですか?」

「学歴は最終で、職歴は全部見たい」

「承知しました。これって、何人ぐらいいるんですか?」

「約50人だ。何日で出来る?」

「一週間は掛かるかと」
「3日でやれ」

「えーっ、承知しました」

うふふ、3日もあれば軽いものよ。総務を舐めないで!
引継ぎの時に学習したから、わざと一週間って言ったんだもんね。

「調べた結果はどこに保存しますか?」

「総務部のファイルサーバーにおまえの隠しフォルダを作ってあるから、そこに保存してくれ」

「ファイル名はどうしますか?」

「そうだなあ、”A表”にしてくれ」

「アルファベットの”A”に、表計算の”表”ですか?」

「そうだ」
「ずいぶんシンプルなんですね?」

「それがいいんだ」
「Aという事は、BとかCとかもあるんですか?」

「ほお、さすがだな」

褒められちゃった。えへへ。

「だが、Aで終わる可能性もある」
「あ、そうなんですね」

「それと、絶対に印刷はするな。これもシュレッダーに掛ける」

ご主人様はそう言うと、私の手から社員一覧の紙を取り上げてしまった。それが無いと、仕事出来ませんけど?

「心配するな。”A一覧”のファイル名でお前のフォルダに入れておく。コピペが出来て楽だろ?」

「助かります」

これがここでの初仕事なのね。大変そうだけど、やる気が出て来たわ。