今日から私は上司の奴隷になりました

2階でエレベーターを降りたら、別のエレベーターで降りたらしい、総務部の後輩に会った。名前は佐倉純子(さくらじゅんこ)ちゃんで、若い割に仕事が出来る子で、IDの管理業務を私から引き継いでもらった部下だ。

「恵子先輩、おはようございます」

「おはよう、純子ちゃん。どこへ行くの?」

「タリーズにカフェラテを買いに行くところです」

「そう? 私もよ」

という事で、私と純子ちゃんは、歩きながら話し始めた。

「純子ちゃんの仕事を増やしちゃって、ごめんね?」

「そんな事、気にしないでください。恵子先輩のせいじゃないんですから」

「そう言ってもらえると、気持ちが軽くなるわ。ありがとう」

純子ちゃんは性格が良くて、可愛らしい後輩だ。

「恵子先輩の職場って、どこなんですか?」

「それがね、総務部とは違うフロアで、臨時で使用するミーティングルームみたいなお部屋なの」

「あの本阿弥さんと二人きりなんですか?」

「そうよ」
「いいなあ」

「どうして?」
「だって、あんな素敵な男性と密室で二人きりだなんて、私だったら平常心ではいられないと思います。やっかむ人がいても、無理ないですよね……」

「それって、どういう事?」

「ほんの一部の人なんですけど、恵子先輩をやっかんで、変な陰口を言ってるんです。恵子先輩は、本阿弥さんに色気で迫ってポストを獲得したに違いない、みたいな事を」

ドキッ

「恵子先輩は気にしないでくださいね。そんな事、他の人は誰も思ってませんから。恵子先輩がそんな事する訳ないし、能力を評価されたからですよね?」

「どうなのかしら。私が指名された理由は、聞いてないから……」

たぶん神徳社長の推薦だと思うけど、それを純子ちゃんに言う訳には行かないと思う。

それにしても、純子ちゃんの言い方が皮肉っぽく聞こえたのは、私の被害妄想かしら。

やはりバーでの出来事は、会社のみんなに知らたらダメだと思った。まして本阿弥課長の股間を握った、なんて事は、絶対に知られる訳には行かない、と思った。