今日から私は上司の奴隷になりました

私、野田恵子(のだけいこ)28歳は、学生の頃から姉御肌で、老若男女問わず、よく人から頼りにされる。

また、私は人から『美人だ』とか、『いい女だ』とか、『連れて歩きたい女だ』とか、『やってみたい女だ』とか、よく褒められる。それはいいのだけれど……

映画か何かの台詞で、『同情するなら金をくれ』というのが有ったと思うけど、それを模倣して私は言いたい。

「褒めるんだったら男をくれ!」

と。私は、男運がとても悪い。

と言っても、モテなかった訳ではない。過去に彼氏の一人や二人や三人はいた。ところが、長続きしないのよ、これが。

今現在、かれこれ2年は彼氏がいない。私のような”いい女”を、なぜ世間の男どもは放っておくのだろうか。見る目が無さ過ぎる!

そんな愚痴をぶつぶつ言いながら、今夜も私はお酒を飲む。酔わなきゃやってらんないって感じ。

ここは会社から程近い所にある、私がお気に入りのバーだ。友人と来る事もあるけど、今夜は一人、カウンターでウイスキーの水割りを飲んでいる。

ふと、4席ほど空いた左の席の男性が目に入った。その男性はカウンターに肘を付き、スマホで何かを見ているらしい。それをいい事に、私は彼をじっくり観察してみた。

歳は私より少し上だろうか。仕立ての良さそうなダークスーツを着ていて、普通の会社員ではなくエリートサラリーマンという感じ。黒髪は少し長めで、緩くウェーブが掛かかり、前髪はフワッと額に降りていて、髪質が良さそうだ。

鼻筋は綺麗に通り、顎のラインはややシャープで、髭は生やしていない。横顔だけで判断は出来ないけれど、かなりのイケメンだと思う。

そんな私の視線に、彼は気付いたのだろうか。不意に彼は私に顔を向け、なんと私に微笑みかけた!

ドキューン

という音がした、ように感じた。拳銃で胸を撃ち抜かれた気がした。あるいはキューピットの矢が、私のハートに突き刺さったような気がした。その場合は、ドキューンではなくグサッだと思うけども。

正面から見た彼は、正に私好みのど真ん中ストライク。私はこの出会いを、決して無駄にしてはいけないと思った。