高梨沙耶は、ベンダーから提示された契約書に蛍光ペンで丁寧にチェックを入れていた。
開発部門から、新たに契約したいベンダーがあると依頼を受けたのだ。自社の標準契約が結べない場合は、リスクのある条項を洗い出し、交渉に備える必要がある。
一通り目を通し終えると、沙耶は椅子にもたれ、両手を組んで伸びをした。腕を下ろした、そのときだった。
「お疲れ」
背後から、塩見信二が肩に手を添え、揉むような動作をした。
「やめてください」
沙耶はすぐに振り返り、鋭く睨みつけた。
「コミュニケーション取ろうとしただけだろ? そんな目くじら立てることないじゃん」
ったく、女を甘く見ないでほしい。
その手にいやらしい意図があるかどうかなんて、された側のほうがずっと敏感に察知する。
「いい加減にしないと、部長に報告しますよ」
「こえぇ、こえぇ」
塩見は肩をすくめて笑いながら、すごすごと席に戻っていった。
◇◇
沙耶は、大手出版社「アングル」のIT開発とDXを担う子会社、「アンビテック」の購買部で働いている。入社して十年目。中堅と呼ばれる立場になった。
ふと気づけば、若手で見どころのあった男性社員たちは、いつの間にかみんな結婚していた。
そろそろ、自分にも何か変化があっていい頃かもしれない。
最近、そんなことをふと思うことが増えた。
開発部門から、新たに契約したいベンダーがあると依頼を受けたのだ。自社の標準契約が結べない場合は、リスクのある条項を洗い出し、交渉に備える必要がある。
一通り目を通し終えると、沙耶は椅子にもたれ、両手を組んで伸びをした。腕を下ろした、そのときだった。
「お疲れ」
背後から、塩見信二が肩に手を添え、揉むような動作をした。
「やめてください」
沙耶はすぐに振り返り、鋭く睨みつけた。
「コミュニケーション取ろうとしただけだろ? そんな目くじら立てることないじゃん」
ったく、女を甘く見ないでほしい。
その手にいやらしい意図があるかどうかなんて、された側のほうがずっと敏感に察知する。
「いい加減にしないと、部長に報告しますよ」
「こえぇ、こえぇ」
塩見は肩をすくめて笑いながら、すごすごと席に戻っていった。
◇◇
沙耶は、大手出版社「アングル」のIT開発とDXを担う子会社、「アンビテック」の購買部で働いている。入社して十年目。中堅と呼ばれる立場になった。
ふと気づけば、若手で見どころのあった男性社員たちは、いつの間にかみんな結婚していた。
そろそろ、自分にも何か変化があっていい頃かもしれない。
最近、そんなことをふと思うことが増えた。



