とある村の怖い話

雄一が舌打ちし、スマホを胸ポケットにねじ込むと夏美の手を掴んで駆け出した。
後方では晴美が村の男たちに捕まって大暴れしている。
けれどそれを気にしている暇はなかった。

「逃げろ逃げろ逃げろ!」
達也が呪文のように呟き、スマホを強く握りしめた。
今こうしている間にもふたりが村人に捕まってしまうかと思うと、居ても立っても居られない気持ちになってくる。

達也は通話状態にしたままで民宿の部屋を飛び出すとそのまま車へと走った。
そしてエンジンをかけたとき、スマホから雄一と夏美の悲鳴が聞こえてきた。

「どうした!?」
スマホ画面には暗い地面が映し出されている。

画面はゆっくりと揺れていて、どうやら雄一は誰かの肩に担がれて運ばれていることがわかった。
ふたりの声は聞こえてこないが、複数人の足音だけが入り込んできている。

「おい……嘘だろ」
達也は自分の全身に汗が吹き出すのを感じた。