とある村の怖い話

髪の毛もボサボサで、いつもの愛らしさは鳴りを潜めていた。
それでも夏美がドアを開けてくれたことが嬉しくてたまらなくて、俺は夏美を抱きしめていた。
そして泣きながら何度も何度も『出てきてくれてありがとう』と言ったのだ。

夏美がまた俺と会話してくれるようになって一月ほど経った時、なにがあったのか教えてくれた。
夏美はその日もふたりに強引に外へ連れ出されたらしい。

いつもはお金をせびってきたり、殴ったり蹴ったりされていた。
だけどその日は違った。

よくわからない廃墟に連れて行かれたかと思ったら、あの男子生徒が待っていたそうだ。
そこまで聞いて俺は耳を塞いでしまいたくなった。

なにも聞きたくない、知りたくない。
今ならまだ夏美に起こった出来事から目をそらすことができる。
だけどそれは選択肢にはなかった。
夏美を前にして逃げることなんてできなかった。

『彼は私に襲いかかってきて、ふたりは笑いながらそれを撮影した』
夏美が自分の体を抱きしめて震える。