とある村の怖い話

それでも夏美は反応してくれない日が続いた。
『実はあの子、手首を切っているみたいなの』
いつものように夏美の家に行ったとき、母親からそんな話を聞いた。

最初は本気で死のうと思って深い傷を作った。
だけどその後クセになってしまったのか、今では何度も繰り返しているみたいだ。
なんでそんなこと。

と、言葉が浮かんできたけれどすぐに飲み込んだ。
夏美だって苦しいんだ。

必死で生きようとしているからこそ、必要なことなんだ。
真っ向から否定すれば更に夏美を追い込んでしまうことになる。

『夏美、俺は夏美が生きているだけでいいと思ってる。部屋から出てこなくても、会話できなくてもいい。ただ、そこにいてほしい』
ドアの外からそう声をかけると、部屋の中で誰かが動く気配がした。

耳を済ませてまっていると、夏美が細くドアを開いてくれたのだ。
学校に来なくなった夏美はやせ細り、夜も眠れていないのか目の下にはクマができている。