だからだ。

あの日……、初めて会った日。
先輩が、驚いた顔をしたのは。

私の、……さくらさんの声を聞いたから。

「さくら」って……、間違ったの。

そばに駆け寄っても、先輩は私に気づいてはくれない。
この声で、呼ばない限り。

最初からずっと、そうだった。

「先輩……!」

風の音で、私の声はかき消される。

だけど、先輩なら気づいてくれるでしょ?

彼女と同じ声なら、きっとあなたは聞きこぼさない。

先輩は、桜の木から目を離す。
それでも、私を見ているわけじゃない。

『1-3 山崎優』。
木の根元に置いてあるノートが、風でパラパラとめくれる。