今日も先輩は、桜の木の下にいる。

散りかけて、花びらよりも緑の葉がほとんどを占めているその木を、見つめながら。

――『去年、うちの女子生徒がひとり、事故で亡くなったの知らない?』

今日は、風が強い。

――『山野(やまの)さくら。優の後ろの席にいた女の子で。優と仲良くてさ』

私は、校舎を飛び出した。

――『え? いやいや、違うよ、彼女とかじゃなくて。ふたり、親友だったんだ。だから、さくらちゃんが亡くなった時、あいつ本当にやばかったんだ。学校もほとんど来れなくなってさ』

先輩は、今日も桜の下で。
愛おしそうに……、恋しい人を瞳に映すように。

――『数学のノート? ああ……あれは、優がさくらちゃんに最後に貸してたノート。ずっと持ってるよな、あいつ。貸したその日に、亡くなったから……』