「せ、先輩、私ね、今から移動で3階で生物の授業なんです。先輩も、移動教室ですか?」

私がここにいることを思い出して欲しくて、わざと明るく声をかける。

「俺は、教室で現国」

「え? でも……」

現国?

そう言う割には、先輩の手の中にあるのは数学のノート。

持ち歩いているなら、移動教室だと思ったのに。

このノートには、見覚えがある。
確か、桜の木の下で……。

『1-3 山崎優』

先輩は2年生なのに、1年生の時のノート……?

「ああ、これ?」

先輩は口角を上げて、再び窓の外に視線を向けた。

「……お守りだよ」

また、私が近づけないその瞳で。