私は倉野杏と書かれた名刺を手に取り、プライベート用の電話番号に電話を掛けた。数コールで杏さんは電話に出てくれた。
「あの……すみません。私、クライスの角田香奈です」
「えっ、香奈ちゃん!嬉しい、電話してくれたんだ」
好意的な言葉に、緊張していた体から力が抜けていく。
「その……相談したいことがあって……」
「良いわよ。この前のバーでいいかしら?」
「はい」
数日後、私は杏さんと待ち合わせをしたバーにやってきた。カウンターに目をやるが、杏さんはまだ来ていなかった。カウンターにいるマスターに声を掛けながら少し高めの椅子に腰を下ろし、杏さんを待った。ほどなくしてバーの扉が開く音が聞こえてきたため、振り返ると杏さんが左手を上げながらこちらにやって来た。
かっこいい人だな。
この人に憧れている人が沢山いるんだろうなと、そう思わせる人だ。
「香奈ちゃんお待たせ。それで話って何かしら?」
杏さんが早速話を切り出してきたため、私は最近の木下次長と琴葉について話をした。すると杏さんは少し考えてから、私に視線を向けた。


