自分の名前が呼ばれ、ハッっとした。慌てて顔を上げれば、そこには眉を寄せた木下次長が立っていた。
「すみません」
「いや、謝る必要はない……」
気まずさから、沈黙が広がる。
気まずい、どうしよう、何かしゃべらないと……。
何かをしゃべらなければと思えば思うほど、脳内はパニックを起こし、よけいに言葉が見つからない。体を強張らせながら、木下次長を見つめていると、木下次長がゆっくりと口を開いた。
「もう皆帰ってしまったぞ。この間も集中しすぎて終業時刻を過ぎていたな。仕事はまだ終わらないのか?」
「あっ、いえ……もう終わりました」
「それなら帰りなさい」
私はその言葉に従い、パソコンの電源を切ると、カバンを持って立ち上がった。そのまま木下次長の顔を見ないようにしながら、挨拶をした。
「お疲れさまでした。お先に失礼します」
木下次長に声をかけられただけで、泣きそうになる。早くこの場から去らないと。唇をかみしめ、頭を軽く下げながら木下次長の前を横切ろうとしたときだった。おもむろに手を取られ、進行方向とは逆の方へと引っ張られた。
「きゃ!」
小さな悲鳴を上げた瞬間、私の体は温かいものに守られるように包まれていた。
「え?え?……」
何が起こったのかわからず、混乱していると、頭上から優しい声が落ちてきた。
「そんな顔をしないでくれ」


