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シャワーを浴びながら俺は頭を抱えていた。
俺は何をやっているんだ。
雨が降ってきたとはいえ、部下をこんな所に引きずり込んで……セクハラやハラスメントだと言われても何も文句は言えない状況だ。それでも俺は皆川をここに連れてきた。下心が無かったと言ったらウソになる……よな……。
だって、仕方が無いだろう。
あんな皆川の姿を見たら、あのまま放っておくことは出来なかった。
今から一時間前――――。
皆川をバーから連れ出し、おんぶしていると、目を覚ました皆川は俺に悪態をついてきた。
「木下次長は一週間でも、私の彼氏らんれすよぉー」
呂律の回らない言葉遣いで、俺に不満をぶつけてくる。普段人から嫌厭され、怖がられる俺にとって、皆川の言葉は新鮮だった。
「ちょっと、聞いてるんれすかぁー?こんなに好きっていってるろにぃー。美紀子しゃんが忘れられないって……分りますけど……っ……私を見て下さいよ……」
グスンッ……グスンッ、と鼻をすする音が背中から聞こえてくる。
いつもは元気な皆川の悲しそうな声に胸が痛くなる。俺はどうしてこの子に応えて上げられないのだろう。いつだって美紀子の顔がちらついて、違う女性を……という気持ちにはなれない。
それもしかたがないだろう。
美紀子はもうこの世にいないのに、俺だけがこうして生きていて……自分だけが幸せになんてなれない。俺が美紀子を幸せにすると誓っていたのに。幸せにしてやることが出来なかった。
あいつはもう、笑うことも、怒ることも出来ない。
それなのに俺だけが幸せに笑う事なんて出来ないだろう。あいつを幸せにできなかった俺が……。
俺は人生を全うして早く美紀子の所に逝きたいんだ。
だから何時だって俺は眉間にグッと皺を寄せ、唇を引き結んで時間が過ぎるのを待つ。自分の人生を全うして、早く美紀子に会いたいと、ひたすらにそれだけを願っていた。


