キョトンとしながら香奈の顔を覗き込むと、長く美しい指が私の頬に触れた。
その時だった。
カウンターの奥のボックス席から、見知った人が現れた。
「あらー?『クライス』の皆川琴葉さんじゃない?」
「え?あ!『メイジア』の倉野杏さん!」
「ふふふっ、覚えていてもらえて嬉しいわ。こんな所で会うなんて奇遇ね。隣いいかしら?」
「あ……はい、どうぞ」
「ありがとう。それで皆川さんの隣にいるのは?」
「同僚の角田香奈です」
香奈は私が紹介する前に椅子から立ち上がると、名刺を取り出して杏さんに渡した。杏さんも同じように名刺を取り出して、香奈に手渡した。
「香奈ちゃんね」
いきなり名前呼びをしてきた杏さんに、香奈が驚きの表情を見せる。
「あの……何ですか?」
「綺麗な子だなと思っただけよ」
杏さんは香奈を上から下まで見てから、意味深にふふふっと笑った。
「それで?颯斗の話をしていたみたいだけど何かあった?」
「「…………」」
私と香奈は顔を見合わせて、口をつぐんだ。
「悪いと思ったけど、話が聞こえて来ちゃったのよ。颯斗とあの子の事でしよう?」
あの子とは美紀子さんの事だろう。
私はハッとしてから杏さんを見た。それを見ていた香奈が、咄嗟に私と杏さんの間に入った。
「倉野さんは、木下次長に何があったのか知っている人なんですね?この子が悲しい顔をする理由を知っている人なんですよね?」
「そうね。私は当事者だから」
「琴葉は私に何があったのか話してくれません。あなたから聞いても良いですか?」
「……そうね。あれから7年も経つのだから、もう良い頃なのかもね」


