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12年前――――。
俺には結婚を約束した人がいた。名前は林美紀子、穏やかにいつも微笑んでいて、空気の柔らかい人だった。俺と美紀子との出会いは大学のサークルだった。サークルでの美紀子はいつも少し離れた場所から皆を穏やかに見つめている、そんな女性だった。それを倉野杏が無理矢理サークルの中心に引っ張り出す。少し驚いた様な顔をしながらも、杏の強引さに笑う美紀子。俺は自然と美紀子を目で追うようになっていた。それに気づいたのは杏だった。
「あんた美紀子のこと好きでしょう?」
図星をつかれ、息を呑んでいるところに美紀子がやって来た。どうやら話を聞かれていたらしく、真っ赤な顔をしながらこちらを見ていた。そんな美紀子の反応から、期待で胸が膨らんでいた。
もしかして、美紀子も俺のことを?
しかしその場では思いを告げることは出来なかった。
それから少しずつ二人の時間を増やしていき、二人の思いが一致していることを確信した俺は美紀子に告白した。美紀子は嬉しそうな顔をして、俺の思いに応えてくれた。
俺達が付き合いだしたことを、杏はとても喜んでくれた。
「やっとくっついたのね!美紀子のこと幸せにしてあげてよ」
杏からの言葉がうれしくて、二人で微笑んだ。
幸せな時間だった。


