木下次長が何に謝っているのか分らなかったが、どうやらどうしても上司としての口調になってしまうことを謝っているらしい。私は木下次長と一緒にいられるだけで嬉しくて、何も気にならないけど。
次長が気に掛けてくれることが嬉しくて、思わずふふふっと笑ってしまう。
そんな私を見て、木下次長がガシガシと自分の頭を掻いた。
「こんな遅くまですまない。皆川の家はどの辺なんだ?」
「私は電車通勤なんです」
「そうか、俺も電車通勤だ」
ふふふっ実は、木下次長が電車通勤なのは知っている。時々電車の中で見かけていたので知っているのだが、私は知らない振りをした。
「そうなんですね。私は三駅先で降りるんですよ」
「俺も三駅先だ」
「えっ?」
「最近引っ越したんだ」
「そうだったんですか」
それは知らなかった。
「ああ、アパートの更新時期が来て、思い切って引っ越した」
「帰る方向は一緒なんですね。それなら一緒に帰れますね」
「……そうだな」
一緒に帰れると喜ぶ私の言葉に、一瞬だけ言葉に詰まる木下次長。
「あの……一緒に帰るのはダメでしたか?」
「そうではないが、俺は帰るのが遅いから一緒には帰れない」
木下次長は残業が多い。それも私達のための残業だ。それを止めて欲しいとは言えない。
そらなら……。
「朝、朝ならどうですか?一緒に出勤するのは良いですか?」
「ああ、それなら大丈夫だ」
「良かった。明日からよろしくお願いします」


