旭山動物園は
ふもとの入口から奥へ登っていく地形。

彼は入園する時に車椅子を借りてくれた。
松葉杖で歩き回るのは大変だからと。

背中越しに聞こえる彼の声が、
心地よい安心感をくれた。

逢月姫
(気づいてるんだからね…?)
(私に気づかれないように汗を拭う仕草…。)

私は車椅子を押し続ける彼の腕が
疲れてきていることに気づいた。

動物たちを見ている時、
彼は私に見えないように腕をマッサージしていた。

私に気を遣わせまいと平静を装う彼が、
たまらなく愛しかった。



旭山動物園で彼の優しさに触れた後、
私たちは中富良野町へ向かった。

私は残念ながら松葉杖なので、
レンタカーは彼が運転した。

旭川から車で1時間くらい。
道の左右は見わたす限りの広い畑と、
吸い込まれそうな青空。

逢月姫
「はいお茶!運転ありがと!」

途中の美瑛町で休憩。

旭山動物園の坂道を、
ずっと車椅子を押してきた彼が
疲れていないはずがなかった。

私は彼へのねぎらいの言葉が
うまく出てこなかった。

ケガした足と、
自分の口下手さがもどかしかった。

せめて少しでも
彼への感謝の気持ちが伝わっていればいいな。