逢月姫
「わぁ…強烈な香り…!」

7月某日、北海道中富良野町のラベンダー畑。

私、夜野 逢月姫は、
観光バスから降りた途端
ラベンダーの香りに全身を包まれた。

気温は32℃、北国の短い真夏日。
私は汗だくになりながら園内へ歩みを進めた。

平地の畑には赤、白、ピンク、オレンジ、
鮮やかなマリーゴールドのじゅうたん。

そして少し目線を上げると、
急斜面を覆う畑は紫に染まっていた。

逢月姫
「満開のラベンダー…香水とぜんぜん違う。」
「くらくらする…。」

ラベンダーはミントの爽やかさと、
フルーツの甘さが混じった独特な香り。

私はそんな香りに立ちくらみしながら、
ほろ酔いの心地良さを感じた。

逢月姫
「満開のラベンダー、3度目でやっと見れたよ?」
「あなたにも見せたかったな…。」

汗とは違うしずくが、私の頬を伝って落ちた。

1つ…2つ…3つ……。



やがてしずくは細い流れになり、
私の眼を赤く染めた。

逢月姫
「…ごめんね…傷つけたよね…?」
「…私…どうしてあなたを”試すようなマネ”を…。」

ポロ、ポロ、

右手をぎゅっと握ってみても、
彼の手を感じることはもうできなかった。

『失恋』の痛みは止めどない涙となって
ラベンダーの香りに溶けていった。