先輩はぼくのもの



「ぼく、前も言った通り親に捨てられたんですよね」


また、笑いながらそう言う想汰くん。
なんで笑っていられるの…?


「あん時のぼくはバカだったんですよ。中学の頃、母親に会いに行ったんです。居場所がわかって」


わたし、、、ホットコーヒーを入れたはず…だよね?


「そこにいたのは母親と不倫相手。それで…」

少し言葉に詰まる想汰くん。
そしてわたしは、熱いはずのコーヒーが熱く感じない。


言葉に詰まったけど、そのあとは淡々と話す想汰くん。
そう、まるで他人事のように。

勇気を出して会いに行った想汰くんにひどい態度で帰らせようとしたお母さん。
そんな想汰くんに酷い言葉で金銭の話をする不倫相手。


どうして
そんな酷いことが出来るの?



「ぼくってバカだからさ、ゴミ以下扱いされたのにまだ必死に母親引き留めようとしてんの。ウケるよね」


なにを言えば正解なんだろう

どんな言葉が正しいのだろう


「不倫相手が振り払うのをよけたら、階段から勝手に落ちてったの」


これが…真実。。


「…そ、想汰くんはなにもしてな…「無様だなって思ってさ」

わたしの言葉を遮って話し続ける。


「血まみれで倒れてんの。そんな奴を抱えながら必死に助けてって叫んでる母親も無様でいい気味でさ」


あ、、、
想汰くんの目に光が宿さなくなった。




「殴られて顔が腫れてて腕とかからも血が出てるぼくなんかいないの同然で」


だめ


「ぼくは救急車を呼ばなかったんだ」



連れていかないで!!



ぎゅっ!!


「…せんぱ…い?」


連れて行かせない。

闇の世界になんて行かせない。



「もう、ひとりじゃないから」


あなたをとりまく【孤独】からわたしが守るから


お願い、心を楽にしてよ



「…引かないの?こんな…ぼく」


不安そうに だけど
どこか冷めていて 線を引いている


「引くわけない。ただ…」

抱きしめている腕に自然と力が入る。



「…ただ?」


「その頃の想汰くんのそばにいれなかった自分が悔しくて…悲しい。絶対守ったのに…」

代わってあげたい
その苦しみや悲しみから


ぎゅっ

やっと想汰くんが抱きしめ返してくれた。



「やっぱり変わらないね、先輩は」


え・・・?

「変わらない…?」


想汰くんがわたしの頬に触れる。



「ねぇ先輩、覚えてる?昔、いじめられてた子をー・・・「ただいまー」


タイミング悪くお母さんが帰ってきた。



「昔って!?」

「んー、もうおしまい」

ニコッと笑ってそう言うと、パッと離れてリビングにやってきたお母さんに挨拶をする想汰くん。



まだ、知らないことがあるんだ。。



【暖かくて、優しくて、愛があって】
【…怖くて胸が苦しくなる】


前の想汰くんの言葉が蘇る。


もう怖くないよ
苦しくならないよ



「お母さん!!想汰くんの好きなもの作ってー」

「えっ!?先輩!?なに急に…!」

「あらー!じゃあ腕を振るっちゃおうかしら♪」


あなたを幸せで包み込めますように。




ーーーーーーーーーー


「家まで送るよ」

「え、逆でしょ?それじゃ、ぼくがまた先輩を家まで送りますよ?」


〜〜…!!バカ。。

「少しでもまだ一緒にいたいんだもん…」

玄関で靴を履く想汰くんに小声で言った。
バカバカ!
恥ずかしいのに…!!



すると、想汰くんがわたしの左頬に触れた。
そして近づく顔。

え!?
お母さんリビングにいるのに…まさかキス!?


慌てるわたしをよそに想汰くんの顔はわたしの耳元にきた。

「先輩、煽るのほんとうまいですね。ぼくん家で…シたい?」

ぼそっと囁いた言葉。
その言葉でわたしの顔は一気に熱くなる。


「キスされると思った?」

そして、意地悪に笑ってこんなことも言う。

悔しい!!
でも、そんなあなたがカッコよくて愛しくなるんだから仕方ない。


「想汰くん嫌い!!」

「ぼくは大好きですけど」

こんな会話をしながら家を出た。
せめて少しだけでも送りたい。


「詩」

想汰くんとバイバイしようとしたら、龍弥が帰ってきた。


昨日のことや今朝のこと、龍弥にちゃんと言わなきゃ。
もう、想汰くんに悲しい想いをさせたくない。


「りゅ…「悪かった」

わたしの言葉を遮るように龍弥が謝った。
まさか謝ると思っていなくて、わたしはポカンとしている。


隣の想汰くんを見る。

想汰くんもポカンとしていた。


「…誰に謝ってんの?」

数秒の沈黙を破ったのは想汰くん。



「……なんてな」

そして続けてこう言った想汰くんがわたしの隣から歩きだした。


「先輩、またね。ゆっくり寝るんだよ」

「あ、待ってー…!」

想汰くんは、龍弥の方は見ずにマンションへ向かって歩いていく。