「お母さん、龍弥は?」
「大学で作りたい資料があるみたいでお昼前に出たわよ」
「そっか…」
お昼ご飯を食べながら無意識にはぁーっと息を吐いた。
なんだかホッとした。
「詩、寝不足で人に迷惑かけちゃだめよ」
「はい…」
仰る通り。
想汰くん、そして田村くんまで巻き込んでしまった。
しばらくしてお母さんは買い物に出かけた。
「どう?もうダルさとかない?」
「うん。ほんとにごめんね、ただの睡眠不足で迷惑かけちゃって…」
「別に。元気なったならよかった」
リビングで2人でお茶タイム。
そういえば
「田村くん、想汰くんに呼ばれてわざわざ来てくれたの?」
かなり申し訳ない!!
申し訳なさすぎる!!
「いや、俺アイツん家泊まってたんだけど起きてすぐ出てったアイツの様子が気になって追いかけたら桜井さんもいたってこと」
そうなんだ、、
「想汰くんのとこ…泊まってたんですね」
なんだろ、この気持ち
「なにー?もしかしてヤキモチ?俺だけ泊まっちゃったしね♡」
田村くんがニタニタ意地悪な笑顔をしながら言う。
「想汰くん、素敵な友達が出来てほんとに嬉しいなって」
涙が出そうなほど嬉しい。
想汰くんに友達がいないなんてことはない。
というか、相変わらず人気者だし。
バスケもあれから引っ張りだこだし、大学では声かけられまくりだし
だけどね
どこかいつも
【独り】だなって感じるの。
【壁】が見えるの。
そう、それはわたしと接してくれている時も。
「あーあ、意地悪言ったのに桜井さんらしいなー」
そう言ってわたしの頭を撫でる田村くん。
「ちゃんとわかってんだね、狩谷のこと」
「ちゃんと…?」
「んー、気にしないで。俺のひとりごと」
??
田村くんの言葉の意味を考えていると
「あ、何かついてる」
田村くんがわたしの右肩に手を伸ばす。
「先輩、殺しますよ」
世にも恐ろしい言葉が聞こえた。
ふたりで声のする方へ振り向く。
「想汰くん!!」
いつの間に家の中に!?
リビングのドアの所に想汰くんが立っていた。
「あ、狩谷おかえり〜。もうそんな時間か」
驚いている間にリビングの中にやってきて、わたしを後ろから抱きしめる想汰くん。
「え〜帰ってきて速攻ヤキモチ全開かよ」
「調子乗らないでください。今あんたを殺すか悩んでるんですから」
「じゃあ決まったら教えて〜」
おい!待ち合わせ場所決めるみたいな感じで返事すんなよ!
てか、殺意は田村くんに向けられてたんだ!!
心の中でツッコむわたし。
「想汰くん、おかえり…。あの、今日迷惑かけー…「ただいま、詩先輩」
迷惑かけたことを謝ろうと思って斜め後ろに顔を上げると、とてつもなくかっこよくて優しい笑顔をくれた。
それだけで胸がぎゅーっと苦しくなる。
今すぐキスしたいぐらいに。
「俺まだいるんだけどー。イチャつかないでー」
ハッ!!!
田村くんがいる前でなに考えてんのわたし!!??
わたしは頭を横に振る。
煩悩を取り払うために。
「まだいたんすか。早く帰ってくださいよ」
「おまえが俺にボディガード頼んだんだからね?」
「渋々です」
相変わらず田村くんに冷たく淡々と話す想汰くん。
だけど、やっぱり前とは違う。
ふたりのやり取りに友情が見える。
「んじゃ俺帰るわー」
「田村くん!巻き込んでしまってその…ほんとにごめんね」
「えー別に巻き込まれたんじゃないし」
そう言ってニコニコ笑いながら靴を履く田村くん。
優しい、、、
「狩谷、昨日は泊めてもら…」
田村くんの言葉を遮るように、想汰くんが目の前に袋を出した。
これはバイト先のパン屋さんの袋。
「クリームパン、うまいっすから」
田村くんは少し驚いた顔をしてから、フッと微笑んだ。
「サンキュ…」
「田村くん、ほんとにありがとう!!」
「い〜え〜」
ひらひらと手を振って帰っていった田村くん。
想汰くんはそんな田村くんを追うように玄関から飛び出した。
「先輩!!」
「どした!?俺、なんか忘れ物した?」
こんな誤魔化してばっかはダメだ。
「その…ありがとうございました……」
ちゃんと口にしないと
言葉にしないと
でも
これ以上踏み込んだら傷つくってわかってんのに
「なんか…ちゃんと言ってくれて嬉しいわ!」
そんなぼくの気持ちなんかお見通しのようだ。
「…ハタチなったら飲みましょ」
自分に驚いた。
未来(さき)のことを言うなんて
「おー!奢ってやるよ」
大切な人を増やせば、その分あとで傷つくってわかってんのに



