ピンポーン…
インターホンの音で目が覚めてスマホを見ると22:36だった。
ぼく帰ってきてからなにしてたっけ?
龍弥を殴ってしまってそれを考えてて…
なんでアイツを殴ったことでこんなに悩むんだよ。
今までこんなことなかった。
中学も高校も小田原たちの時だって、、、
ピンポーン
また鳴るインターホン。
もしかして詩先輩かな。
寝てしまってメッセージに返事出来てなかったし。
ぼくは急いでドアを開けた。
「よっ!返事ねぇし心配したんだけど」
「田村先輩…」
龍弥のことだよな。。
あの時、なぜか頭に浮かんだのが田村先輩だった。
「あ、先輩今日はー…」
「コンビニで色々買ってきたんよ。部屋お邪魔するぜー♪」
「はっ!?」
ズカズカと部屋に入る田村先輩。
「おまえ酒ってもう飲めるっけ?」
「まだ無理ですよ」
「いいじゃん、飲もうぜ」
「飲みません」
なんでウチ知ってんだ?
「あの、なんで住所知ってるんですか?」
「桜井さんに教えてもらった」
あー、詩先輩か。
「心配しなくても、渡したい物があるって理由にしたから。桜井さんには今日のことなんも言ってねーよ」
ぼくの心を見透かしたような田村先輩。
「…ご迷惑おかけしました」
「なんかおまえから返事ないって言ってたぞ」
そうだ。
寝てしまってたから。
「まぁ…よかったよ」
「え?」
「おまえがちゃんと家にいて」
田村先輩…
先輩はドカッと座って缶ビールを一口飲んで、うめーって笑ってる。
「酔わないでくださいよ」
「酔ったら泊めてなぁ〜」
「嫌です」
ぼくはあの時、この人になら…ってそう思ったんだ。
「先輩、すみませんでした。ぼく…」
「俺が言えることじゃないけどさ」
立ったままのぼくを見上げる田村先輩。
「もう人に手を出すな。そんなことしなくても、おまえはもうひとりじゃないから」
あ、、まただ。
胸が苦しくなる。
でも、クソ親の時とは違う苦しさ。
「大事なのに、、大切にしたいのに…ぼくのそばからなくなっていくんです」
こんなこと言ったって困らせるだけなのに
「だから邪魔になるものは全て排除しないとダメなんです」
しばらく沈黙が続いた。
「座れば?」
あ、そういえばずっと立ったままだった。
「ていうか…ここぼくん家なんですけど。」
「はは!そうだったな!」
まったくこのひとは…
張り詰めてた気持ちが一気に緩む。
「俺さ〜母子家庭なんだよ」
「え?」
いきなり田村先輩が自分の話をしだした。
「父親が不倫して離婚。確か中学の頃だったかな」
不倫。
理由がまったく一緒。
「自分が悪いくせに養育費も入れない終わってる父親でさ、そっから母さんがガムシャラに働いてた」
でも、やっぱり全然違う。
「…良いお母さんですね」
「そうだな。自分のことは全部後回しの人だから。俺、大学行くつもりなんかなかったのに行けって」
田村先輩がぼくをジッと見た。
「母さん、良い人見つかって来月再婚することになったんだよ」
「マジですか!良い人見つかってよかったですね!」
なんだろう、自分のことのように嬉しい。
「…な?おまえにはちゃんと人のことをそうやって喜べる心があるんだよ」
え・・・
「自分をもっと大切にしろ」
あぁ、まただ。心が痛い。
「再婚話、人にしたの初めてだわ」
「そうなんですか?」
でも嫌な痛みじゃなくて、なんていうんだろう。
「よっしゃ!飲むぞ!!」
「いや、帰ってくださいよ」
どうして先輩がこの話をしたのかはわからない。
単純に聞いて欲しかったのか
何かをぼくに伝えたかったのか
どちらにしても、この人の優しさのルーツを少し知れた気がした。
「先輩、お人好しで騙されたりしそう」
「いや、俺冷たい奴だから大丈夫」
どの口が言ってんだか。
「酔っ払いは帰ってくださいよ」
詩先輩以外でぼくの家に人が来たのは、この人が初めてだ。



