何かが崩れていく時は一瞬だ。
積み上げていくのには
時間も労力も何十倍とかかるのに
「性格悪いっすね」
失うのは一瞬。
「おまえには負けるよ」
それをぼくは身をもって知ってるから。
「ぼくのストーカーですか?申し訳ないけど、あんたには微塵も興味ないんですけど」
次の日の昼休み、龍弥に人のいない教室に呼び出された。
「中学、高校と同級生や先輩たちを半殺し」
「え〜言い方悪いっすよ。売られた喧嘩を買っただけです」
「詩のこと、ずっとつけ回してたのか?」
「……だから?」
これはぼくの甘さが招いたこと。
「おまえみたいなやべー奴と詩を一緒にいさせるわけにはいかねぇんだ」
「あんたってさ、結局口だけだよね?」
ぼくから詩先輩を奪うなんて許さない。
ガシッ
胸ぐらを掴まれた。
「なんで詩なんだよ!今すぐ俺たちの前から消えろ!」
隙を見せたからこうなったんだ。
ぼくは何回同じ事を繰り返すんだよ。
ぼくの胸ぐらを掴んでる腕を力を入れて握った。
「いてっ…!!」
ドカッ!!
龍弥の腹を思いっきり蹴った。
「ゔっ…」
倒れた龍弥の髪を掴んで顔をあげさせる。
「顔や腕は狙わないよ。“見える所”だしね」
あぁ、ヤバイ。
またドス黒いなにかがぼくを覆っていく。
最近落ち着いてたと思ったのに。
「もうぼくのことは“全部”わかってるってことですよね?」
龍弥は苦しそうに蹴られた腹を押さえてる。
「ぐはっ!!」
もう1発蹴った。
ヤバイ
もう止めないと
ぼくはー・・・
「ゲホッ…おまえ、、母親の不倫相手殴って今も意識不明で入院してんだって?」
ドクンッ!!
「おまえ、犯罪者じゃん」
心臓が痛い
「犯罪者が詩に関わんな」
消さないと
「この街から今すぐ出ていけ!」
・
・
・
〈ん?このガキ誰?おまえの子どもってマジ?〉
〈そんなわけないでしょ〉
〈お母さん!ぼくだよ!想汰だよ!!〉
ドンッ!
母親に突き飛ばされて、柱に体を打ちつけた。
〈キモイんだよ!なんでここがわかったの!?今すぐここから消えて!!〉
勇気を出してお母さんの元へ行った中学2年の夏。
でも現実は残酷で、必死で探した母親にゴミ以下の扱いをされた。
あぁ、ぼくはやっぱりひとりなんだ。
ガシッ
呆然となりながらあてもなく歩いていると、後ろから腕を掴まれた。
〈は…?なに、、、〉
〈おまえの父親さ、金持ちだよな?〉
相手はさっきいた母親の不倫相手。
〈離せよ!〉
〈おまえの母親さぁ〜、旦那が金持ってるから近づいたのにまさかの家出てくんだもん〉
は・・・?
〈あの女ある程度金持ってきてたけど、それも底ついてきてさ。父親から調達してくんない?〉
なに言ってんだ、コイツ。
なんだこれ
苦しい
〈金調達出来たら、“大好きなママ”すぐに返してやるよ〉
そう言ってぼくの頭を撫でる。
〈こんなとこまで来るなんてマザコンだねぇ〜。まぁ、母親に顔もそっくりだもんな。大好きなママ追いかけてきて可愛いですね〜〉
〈本気になるなんてなぁ〜。キモイよね、おまえの母親〉
プチンッ
ぼくの中でなにかが弾けた。
気づけば不倫相手に馬乗りになって殴っていた。
自分にこんな力があるなんて気づかなかったほど。
〈クソガキが!なめたことすんじゃねぇよ!!〉
だけど、大の大人に敵うわけもなくすぐに反撃を受けてぼくはその場に倒れた。
バタバタバター…
走ってくる足音が聞こえて、殴られた痛みを堪えながら音のする方へ顔を向けた。
お母さん…!!
お母さんがこっちに向かって走ってきていた。
ぼくを助けに来てくれたんだ!
だけど、そう思ったのも束の間
「ヨシト、大丈夫!?」
お母さんが走ってきて駆け寄ったのは不倫相手だった。
「あんた!!この人になにしたのよ!?」
倒れてるぼくなんて見えてないように、でもぼくに向かって叫んでる。
ぼく、この人に殴られてるんだよ?
さっき、この人お母さんのことボロクソに言ってたんだよ?
「もう2度と目の前に現れないで!!!」
不倫相手を引っ張ってその場を後にするお母さん。
なんだよこれ…
「待ってよ!お母さん!!コイツは最低な奴なんだ!!お母さんのことすげーひどく言ってたんだよ!?」
追いかけて、下りの階段手前でお母さんにしがみつく。
殴られた腕や頬が痛い。
「このクソガキ!しつけーんだよ!!」
不倫相手がぼくを振り払おうとした。
ぼくは咄嗟にしゃがんでよけると、バランスを崩した奴が階段から落ちていった。
お母さんが悲鳴をあげている。
あれ…?
なにが起きたんだ?
落ちた不倫相手は動くことなく、頭から血を流していた。
あーいい気味。
気づけばぼくは笑っていた。
血を流す男
その男に駆け寄り悲鳴をあげている女
やっぱりクズはクズなんだ。
この瞬間、ぼくは完全に心に蓋をした。
もう、誰も信じないと。
・
・
・
「龍弥(おまえ)も同じこと言うんだな」
「は……!?」
神様、ぼくからなにもかも奪うんですね。
いや、ぼくがそもそも神様なんて言うことが甘いか。
プルルルー…
「あ、先輩頼みたいことがあるんですけど。今からC棟の302に来てもらえますか?」
ピッ
「じゃ」
「おまえ、誰に電話して…ゲホッ」
崩れるのは本当に一瞬。
まるでバランスを崩したジェンガのように。
「もうぼくたちに関わるな」
そう言って龍弥を残して教室をあとにした。



