「バスタオル、これ使ってね♪」

「…………」

「? どうしたの?」

想汰くんがじっとこっちを見てる。


「先輩、なんか浮かれてる?」


ドキッ!!
想汰くんと一緒にいれて喜んでるのバレてる!?
そんなバカな!?
平然を装ってるつもりなのに!!←ダダ漏れ


トンッ
気づけば脱衣所の壁に追いやられて、想汰くんと壁に挟まれてしまった。


「なにがそんなに嬉しいんですか?」

ニッと意地悪な笑顔をする想汰くん。
これ…絶対わかってるやつだ。


「べっべつに!なにもないってば!」

クイッ
顎を上げられて、半強制的に想汰くんと目を合わせることに。


「ぼくは嬉しいですよ。気が狂いそうなほど」

ドクンッ・・・


そっとわたしの唇をなぞる想汰くんの指。

「先輩は一緒じゃないの?」


家族が来るかもしれないのに、、、
キスがしたい。


「わたしだってー…」


コンコンッ

ドキッ!!!

「狩谷くん〜?シャンプーが切れちゃってるからこれ使ってー」

お母さんだ!!


「はい、ありがとうございます」

わたしは何故か咄嗟にドアの影に隠れて、想汰くんはそんなわたしを見て笑いながらシャンプーを受け取った。


「なにしてんの」

「いや、えっと…!」

「かわいい」


チュッと頬に優しくキスをしてくれた。

「あとで部屋行きますね」


わたし、こんなに大好きなんだよ。
想汰くん、伝わってるかな?




コンコンッ

「はい」

「入っていいですか?」

急いで部屋のドアを開けた。


「お風呂上がるの早いですね」

だって、少しでも早く想汰くんと話したかったから。



「先輩、お父さん遅いですね」

「あっお父さん、出張中なの。来週には帰ってくるよ」

「そうなんですね。ご挨拶しようと思ってたから」


あ…遠くを見る目。


「どうしたの?」

「え…?」

「想汰くん、なんか…考えてるかなと思って」


想汰くんが床に座った。



「やっぱりぼくには贅沢過ぎるなと思って」

贅沢??

「なにが?」

「“先輩の家(ここ)”が」


ウチが??
ん?
意味がわからない。


「暖かくて、優しくて、愛があって」

想汰くん・・・

「…怖くて胸が苦しくなる」


ドクンッ

そう言った想汰くんは笑っていた。
でも、今のわたしならわかる。
心から笑ってないって。


きっと今までもそうして過ごしてきたのかな。


ぎゅっ
「先輩?」

気づけば想汰くんを抱きしめていた。


ずっと自分の気持ちを押し殺してきたの?


「想汰くん、泣いていいんだよ」


あなたが1日も早く、現在(いま)を恐れなくなってほしい。
当たり前のことなんだって、愛を受け止めてほしい。



「わたしが怖いこと全部から守るから」


ぎゅう
わたしを強く抱きしめ返す想汰くんの腕が少し震えている。

きっと…泣いてるんだ。


「…ずっと一緒にいていいの?」


「もちろん」



あれ・・・
わたし、今の言葉
前にも聞いたことあるような気がする。


なんでだろ
どこでだっけ

なにか、ぼやっと記憶が…



コンコンッ


え!?

ノックの音でパッと想汰くんと離れた。


「詩、起きてるか?」


龍弥だ

「うん」


ガチャッ

「…やっぱおまえもいたか」

「どーも。」


あーー、また険悪ムード。



「ねぇ彼氏くん。俺、詩に告ったから」


ちょっと龍弥!?

「知ってます」

「さすが詩〜。正直だな」


どういうつもりで想汰くんに話してんの!?


「おばさんがおまえが泊まってるってさっき言ってたから。ちょーど話せると思ってさ」


「龍弥、もうそのへんでー…」
「悪いけど俺が詩もらうから。おまえみたいなクズには無理」


は!?
クズ!?


「龍弥!今の言葉…謝って!!」

龍弥の目の前に立って、思わず睨んでしまった。


「クズなんて…最低だよ!早く謝ってよ!!」

怒りで涙が出てくる。


「先輩、いいから」

そんなわたしを後ろから優しく抱きしめてくれる想汰くん。



「なに、こんな遅くに!えっ詩!?」

わたしが大声を出してしまったせいで、お母さんが部屋にやってきた。
泣いているわたしを見て驚いている。


「ごめん、お母さん。なんでもないから」


「すみません、おばさん。俺が怒らせちゃったんです。もう大丈夫ですから」


龍弥はそう言って自分の部屋に向かった。
結局想汰くんには謝らずに。


「仲良くしなきゃだめよ」

お母さんはあえてか、これ以上深く聞いてくることはなく部屋に戻っていった。




「想汰くん、、ごめんなさい。嫌な気持ちにさせて」


ポンッ
ヒドイ事を言われたのは想汰くんなのに、わたしの頭を撫でてくれる。


「なんで先輩が謝るんですか」


あ、、ダメだ。涙が溢れる。


「先輩、顔あげて?」

泣いているのを隠すために顔を伏せて首を振る。


「お願い」

優しい声に抗えず、ゆっくりと顔をあげた。


そっとわたしの涙を拭う想汰くんの手。


「ぼくのために泣いてくれたんですか?」


そう言った想汰くんは悲しそうで、でも嬉しそうで、苦しそうな表情をしていた。



ドクンッ…!!

あれ?
なんだろ、この鼓動。

「想…「先輩、おやすみなさい。また明日ね」


待って。


パシッ
部屋を出ようとした想汰くんの服を掴んだ。


「ぜ、絶対明日だよ!?」

「??うん、明日ね?」


わたしの考え過ぎ・・・?



ドアが閉まってひとりきりになった部屋。


さっき感じた不安はなんだろう。


想汰くんが、どこか遠くに行ってしまうような
この不安と恐怖は。

なんでー・・・