先輩はぼくのもの

「想汰くんがいちゃいけない場所なんてないんだよ」


またぼくは先輩を困らせてる。

すげー嬉しいくせに
こんなこと言わせてしまって
…なんて思ってるぼくは、だいぶ捻くれてて面倒くさい奴だ。


「…うん、先輩ありがー…「もし、そんな場所があるならわたしがなくしてあげる!なんとしても!」

強気で、それでいて優しい表情。
かわいくて
いとしくて

たまらない



まかせて!と、満面の笑みで親指を立てるポーズをする先輩。


「…ぶはっ!!先輩可愛すぎるから」


「えっ!?なんで笑うの!?」

ぼくが笑ったせいで照れながら焦ってる。


「先輩が可愛すぎるせいです」


さっきまでのドス黒い感情が、先輩の魔法によって溶けていく。


先輩がぼくの手を握る。


「戻ろ?」

「でも…」

「お腹痛かったって言えば大丈夫だよ!」


ぼくが大好きになった先輩は
今も変わらず
ぼくにとってずっとヒーローだ。

身動きが取れない
暗闇の中のぼくを引っ張り出してくれる。



「なんだよー、腹いてぇなら正直に言えよな!」

「いや、なんていうか…」

「恥ずかしがんなって!」

ぼくがお腹痛くて、でもそれが恥ずかしくて逃げ出したことにした。
これはこれで恥ずかしい。

でも

詩先輩が優しくてとびっきりかわいい笑顔でぼくを見てくれてるから
それだけでぼくは幸せだ。


それに


グイッ
「俺と想汰が組めばどんなチームにも勝てんじゃね?」

「柳瀬…馴れ馴れしく肩組んでくんな」

「うーわ、つめたー」


ここが居心地がいいなんて、すごく怖いことを思ってしまってる。



ーーーーーーーーーー

「え、おまえバスケ始めたん?」

「いや、始めたというか誘われて仕方なくというか」


最近田村先輩と過ごす時間も増えてきた。
何気に一緒の授業も多いし。


「いいことじゃん!なんかすげー嬉しい!試合見にいくから教えて」



「なんで…」

「え?」

「ぼくのことなのに…そんな喜べんのかなって…」

今までこんなひとが周りにいなかったからわからない。



そう、詩先輩以外は。


「友達だからじゃね?」


友達・・・

「大事な友達のことは嬉しくなるんだよ。それに悲しいことは一緒に悲しくなるし」


わからない。


「…そっすか」


わからないのに
なんでこんなに嬉しいんだ。


あとで傷つくのが怖くて逃げてたはずなのに。


ヴーッ

「あっ桜井さんと一緒に試合応援行くことになったわ」

「え、なんで?」

「メッセージ送ったら一緒に行こって」

「先輩と連絡取らないでくださいよ」

「うーわ、嫉妬えぐ。」


ぼくってこんな風に笑いながら冗談が言えるんだ。



だから勘違いしそうになる。


ここは
ぼくの居場所なんじゃないかって。




ーーーーーーーー


「詩〜腹減ったー」

「もうすぐ出来るよ」


あれから数日経ったある日の夜。
お父さんもお母さんも帰りが遅くなるみたいで、家に龍弥とふたり。

簡単なものだけど、夜ご飯を用意中。


「わー!うまそー」

「家にあったもので作ったから簡単なものだけど」

「十分!ありがとう。いただきます!」


美味しそうに食べてくれる龍弥。
あれからこの前の出来事を含めて、想汰くんの話を龍弥としていない。
大学にも変わらず通えてるからひとまず安心。


ふと壁にかかっているカレンダーを見た。
あと3週間ぐらいでクリスマスかぁ。
想汰くんと一緒に過ごせるかな。

あ!想汰くん、なにが欲しいんだろ!?
調べなきゃだなぁ。
バイトもっと増やしておけばよかった!!



「百面相」

「え!?」

「表情変わり過ぎ」


うわっ
わたし、顔に出てた!?


「アイツのこと考えてたのか?」


見透かされて顔がカァーッと赤くなるのが自分でもわかった。


「仲が良いことで」

それ以上はなにも言わず、またもくもくと食べだした龍弥。





ガチャッ

お風呂に入って脱衣所から出るとちょうど龍弥がいた。


「ごめんね、お風呂お待たせ」

そう言って2階に上がろうとしたら、腕を引っ張られた。


「きゃっ…」

気づけば壁と龍弥に挟まれていた。


「??…えっと……どしたの?」


「アイツはやめとけ」


いきなりだったのに龍弥が言う【アイツ】が想汰くんのことだっていうことは、何故かすぐにわかった。


「なんでそんなこと言うの?」

やっぱり仲悪いから?
なんだかすごく悲しい。


「詩はアイツのことわかってねぇんだよ。ほんとのアイツを」


ほんとのアイツ?



「なにそれ…。そんなことないもん。想汰くんのこと、ちゃんとわかってるもん」

「わかってねぇから言ってんだよ!」


わたしの腕を壁にあてて握る龍弥の力が強くなる。



「なに言ってんの…?意味わかんないよ!」


「アイツは詩が思ってるような奴じゃない。詩が見てるのは表の顔で、ほんとはひどいこととかたくさんやってきてる奴なんだよ」



なんでー…


「なんでそんなひどいことが言えるの!?龍弥こそ、想汰くんのことなにもわかってないくせに!!」


許せない

悲しい


幼なじみにこんな風に言われるのって、結構キツイな。


なにより、大好きな想汰くんのことをひどく言うのが許せない。


「龍弥ひどいよ…!最低だよ!!」


泣くつもりなんてないのに涙が止まらない。 



「詩…」

「そう…た、くんに…謝ってよ。。」

涙のせいでうまく話せない。




ぎゅっ


え……

今度はなにが起こってるの?



なんで龍弥に抱きしめられているの?





「りゅ…」
「好きだから」



今、なんて・・・



「詩が好きなんだよ」