柳瀬には悪いけど、適当にやろう。
本気になったって結局…




〈1年のくせに生意気なんだよ〉

〈顔で選ばれたんじゃね?〉

あー、ウザイ

〈そんなこと言う暇あったら練習したらどうです?1年のぼくにレギュラー取られてるんだから〉






思い出すだけで胸糞悪い。
ぼくの周りはあんな奴ばかりー…「想汰!」


柳瀬の声にハッと我にかえる。


「早速2グループに分かれて試合すんぞ!」


適当に

ぼくとやることを嫌になってもらえばいい。



練習が始まる。

バスケットボールが体育館の床に当たる音。
シューズがキュッと擦れる音。

全部が懐かしい。


少ししてぼくの方へボールが回ってきた。


適当に

自分に言い聞かせてシュートをした。
案の定、決まらなかった。


「ドンマイ!」

同じチームの柳瀬が笑顔でぼくに言う。


なんで…



柳瀬がドリブルをしながらゴールネットに向かう。
うまい、、、


先を阻まれてドリブルをやめた柳瀬。

あ、、あの位置ならー…


気づけば足が気持ちとは裏腹に動いていて、柳瀬がパスをしやすい場所に向かっていた。
あの位置なら相手チームの隙をつける。


「…さすが♪」

そう言ってニヤッと笑った柳瀬。
そしてぼくに向かってパスをした。


パスを受け取ると、無意識に身体が動く。
ここからなら…力はこれぐらいだな。

身体を安定させ、ボールに力を伝えるように
そしてゴールに向かってそっと指を離す。
思い描いた線をなぞるように、ボールがネットに入る。



…やってしまった。
つい夢中なって・・・
「すげー!狩谷、あの位置からシュート決めるとかえぐっ!」

「俺にも教えてくれよ〜!」


あれ…?
思ってた反応と違う。


「さすが想汰♪俺の目は間違ってなかったな」

「柳瀬…」


なんだろ、ぼく


嬉しい。



「想汰くん、すごいー!!!!!」


へ!?
この声は


「詩先輩!?なんで!?」

「俺が教えたんだよ♪彼女さんの応援あったら頑張れるかなぁと思って」

「柳瀬(おまえ)なぁ…」


すごく嬉しそうに手を振る詩先輩。


あぁ、こんな時もかわいい。



先輩と一緒にいるようになってから
ぼくの気持ちがおかしい。


ぼくはずっとひとりだったのに


今、ぼくの周りにひとがいる。


こんな感覚に慣れてないから、どう対応したらいいのかわからない。




「…わるい、帰る」


「え!?想汰!?」
「狩谷!?」


どんな風に接したらいいかわからなくて、その場をあとにした。


なにしてんだか、ぼくは。




〈あー、ウザイ。ぼくに構うなよ〉

〈テメェ…それが本性だろ!?〉

〈本性もなにも、これがぼくだけど?なにも隠してないし〉

相手の背中を踏む。


〈ぐはっ!〉

〈そもそも喧嘩売ってきたのはそっちだよね?ぼくのせいにしないでよ〉


いい気味。
高1でバスケ部のレギュラーになったぼくに嫉妬して絡んできた2年と3年の奴ら。
5人でぼくひとりに絡んでくるとか、どんだけ度胸ねぇんだよ。


グイッ

倒れている奴らのひとりの髪を引っ張り、顔を無理矢理上げる。


〈今日のことは黙っといてあげる。だからおまえらも黙っとけよ〉


ぼくは静かに高校生活を過ごしたいだけ。
 

友達なんかいらない。
学校行事とか興味ない。

ただ、1日も早く詩先輩のそばに行きたいだけ。


〈それを邪魔するなら消すよ?〉


いらないもの、邪魔なものは排除すればいい。
そしたらぼくが“いらないもの”にならないから。






そう、それがぼくなんだ。

だからこんなぼくは



「想汰くん!!」

振り向くと、詩先輩が走ってこっちにやってきた。
ぼくのそばに来た先輩は、はぁはぁと息を切らしている。



「急にどうしたの!?」


「あんな…」
「え?」

ぼくは

「あんな場所にいちゃいけない人間だから」


あんな明るい場所になんか。




…ヤバ。
なに言ってんだ、ぼくは。
無意識に口走ってしまった。


「ごめん先輩。急に気分が悪くなっただけだから。先に帰るね」


そう言ってその場を去ろうとしたぼくの腕を、先輩がぎゅっと掴んだ。



「…そんなこと、思わないで」