先輩はぼくのもの

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「おはようございます」

「…はよ」


なんで朝イチからコイツの顔見ないといけないんだよ


「朝早いっすね」

「論文まとめねぇといけねぇんだよ」


朝7時だぞ

家を出て少し歩いた角に狩谷がいた。


「テメェ何時からここにいんだよ」

「いや、さっきですよ」


薄気味わりぃ

「詩に用か?」

「いえ、あなたです」


あー、ダルすぎる


「わかりましたよね?もう詩先輩に関わらないでくださいね?」


「昨日のことかよ?おまえの執着心に吐き気してる」

やっぱりコイツか
こんな危険な奴と詩を一緒にはいさせられない。



「ぼくはあなたの女癖の悪さに吐き気してます。そんな汚い手で詩先輩に触んな」


言わねぇと

「俺は詩が好きだ」


今ちゃんとコイツに言わないといけないと思った。



「…最終通告っすよ?」

俺を見る目があまりに冷たくて感情がなくて、ドス黒い何かに吸い込まれそうな恐怖を感じる。


「詩にこうしてまた会えるって思ってなかった…。女遊びはまぁ…してたけど、詩は違う」

「意味わかんねぇ」


「俺は詩が好きだ、昔から。離れてもう会えないんだと思ってた。そんな時、今の夢を持つようになって法学部に進んだんだ。そしたらこうしてまた詩にも会えて…」


俺、なにをダラダラコイツに話してんだ?
こんな言い訳みたいな情けないことを



どれぐらいだろうか。
沈黙が続く。


「ぼくも“昔から”好きですよ、詩先輩のこと」


“昔から“


「おまえやっぱりー…!」


「ほんとに好きなら少し離れたぐらいで諦めたりしませんよ。どこまでも追いかける」


「それが…おまえのやり方なのか?」


「諦める理由になりませんから」

「詩の気持ちはどうなんだよ!?気色悪いことばっかしやがって!」


「追いかける勇気もない人に言われたくありません」


狩谷(コイツ)の言葉に言い返せなかった。



背中を向けて歩いていく狩谷の姿を呆然と見ることしか出来なかった。




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「桜井さん」

「田村くん!田村くんも空き?」

次のコマが空きなので課題をするため食堂に向かっていたら田村くんに会った。


「いや、次狩谷と一緒なんだけど連絡取れねーし見当たらなくて。桜井さん知ってるかなと思ったんだけど」

え?想汰くんがいない?

「あれ?朝は先に大学行くって連絡きてたんだけど…」


そういえば今日、大学ではまだ見かけてない。


「なにかあったかな。想汰くんと連絡ついたらすぐ田村くんに連絡するね!」

「ありがとう。頼むわ」







コンコンコンッ

「はーい?」


ガチャッ

「失礼します」  

「えっと…見ない顔だね。川井教授に用かな?」

やってきたのは、法学部で有名な川井教授の部屋。


「いきなりすみません。その…見学と言いますか…」

「え!ウチのゼミに興味あるの!?」

「えぇ」


すごく良い人そうな男の人。


「嬉しいなぁー。でも今教授席外しててさ」

「そうなんですね」

チラッと辺りを見渡す。



「法学部3年の佐渡ユウタさん。今すぐ学生事務局にき来てください」


事務局からのアナウンスが鳴った。


「え?俺じゃん。ごめん、すぐ戻るからよかったら待ってて」

「はい、わかりました」


ひとりきりになった教授の部屋。

まぁ、全部計算通りだけど。



次の講義のために席を外してる川井教授。
この時間、あの人しかここにいないのはわかってた。
だから呼び出してもらうようにも仕向けた。
龍弥(アイツ)は今図書館。


教授の机を見渡す。
少し前教授に論文を渡してた龍弥。
移動前だった教授は受け取って机に置いていた。


だからあるはず。


「…あった」

色んな書類に紛れて見つかった龍弥が作ったであろう論文。



ぼくはその論文を手に取った。



ここに来た理由はひとつ。


龍弥(アイツ)を完全に排除するために。


人が来る前に早くこれをー・・・




〈今の夢を持つようになって法学部に進んだんだ。〉


なんで、今あんな奴の言葉がチラつくんだよ



〈…だから、龍弥はわたしの恩人?かな〉


パサッ・・・








ガチャッ

「ごめんねー!なんか人違いだったのか呼び出した人いなくてさー…ってあれ?いない?」


せっかくウチのゼミに興味持ってくれてたのになぁー。


ん?

紙が落ちてる。
戸倉くんの論文だ。
窓開けてたから風で飛んだかな。






ヴーッヴーッ


「はい」

「あー!やっと連絡ついた!想汰くん、今どこ!?」


「………」

「…想汰くん?」



プツッ


大好きな先輩からの電話なのに切ってしまった。



「狩谷!!」



法学部がある棟から出て外を歩いていると、田村先輩がこっちにやってきた。
今はもう授業中のはずなのに。



「ハァハァ…テメェ連絡ぐらいしろよ!」

息が切れ切れ。


ペシッ
軽く頭をはたかれた。
軽くってほどでもないほど
もちろん痛みはない。


「心配かけんな。行くぞ」




ぼそっ
「もう…消えれば全部うまくいくのに」


「え?」

歩きかけた田村先輩がぼくの言葉に足を止めてこっちに振り向く。




わかってたんだ
はじめから


昔から



「ぼくが消えればいいんだよ」



排除しないといけないのは
ぼくなんだ。