「ー…そっか。だから?」
え?
思ってた返答と違ったからなのか
いや、そもそも返答を考えてもなかったんだけど
あまりに
あまりにそっけなく感じて
俯かせていた顔を急いで上げた。
「想…汰くん…」
そこには今までに何回か見たことある冷たい表情を遥かに超える、
まるでなにも感情がないような
真っ暗のような表情の想汰くんがいた。
こんな想汰くん知らない
「えっと…」
そのせいで言葉に詰まってしまう。
「先輩はアイツが大事ってことですね」
「違うよ!」
いや、大事なのはそうだけど
想汰くんが言っている意味じゃないことはさすがにわかる。
「なにが違うの?」
想汰くんに全然伝わってない。
どう言えば伝わるんだろう。
頭の中でいろんな言葉を考える。
「あ、あのね!わたしが言いたいのはー…」
「こっちだよー!」
廊下の向こうから誰かの声がして言葉を引っ込めてしまった。
「余計なことしました。すみません」
「違うの、謝ることなんてないから」
「…ぼくはいらないものだから」
え。。。
想汰くんがわたしのそばから離れていく。
「想汰くん、待って!」
追いかけようとした時事務局から先生が出てきてぶつかりそうになり、その間に想汰くんはいなくなっていた。
【ぼくはいらないものだから】
なんで、、そんな悲しい言葉を言うの
そんな悲しい表情(かお)をするの
あー…わたし
なにしてるんだろ。
なんでこんなことになったっけ?
大切な人にあんな表情(かお)させて
なにがしたいの。
なんで
涙が出るの。
ーーーーーーーーー
「なんすか」
「何時に終わんの?」
「言いたくないです」
「じゃ店の中で終わるまで待ってる」
「…21時半ぐらいには終わると思います」
なんでこの人はこんなに俺にかまうんだろう。
「お待たせしました」
パン屋さんの近くにあるカフェで待ってくれていた田村先輩。
「待ちくたびれた」
「つか、頼んでませんし」
そっけな〜って言いながら笑う先輩。
「…で、なんですか?」
この人のことだから、今日の龍弥(アイツ)のことだろうな
「んー、またメンドイことやってんなぁと思って」
「はい?」
「あんなことしなくても、桜井さんはおまえしか見てねぇって」
「言ってる意味がよくわかんないっす」
この人はなんでこうも、、、
「おまえさ、桜井さんに色々バレたらどうすんの?」
バレる…か
あれ、そういえばそうだな
「…考えてなかった…です」
ぼくの応えが意外だったのか、絶句の表情の田村先輩。
「頭良いくせに、なんでそこ天然なわけ?」
バレるとかそういうんじゃなくて
「先輩がぼくのそばから…目の前からいなくならないようにするのに必死でそれ以外考えてませんでした」
でも、ひとつだけ決めてることはある
「もうこれ以上はなんもすんなよ。もっと桜井さんを信じろよ」
「詩先輩のことは信じてますよ。てか、詩先輩以外信じてません」
すると田村先輩がため息を吐いた。
「そこは嘘でも【俺のことも信じてます】ぐらい言うとこだろ?」
「嘘は嫌いですから」
「はは!どの口が言ってんだか」
ぼくの話すことで笑ったり注意したり、、変な人。
「なら、自分のことを信じろ。狩谷が1番自分自身のこと信用してねぇだろ」
なんだ?
この胸あたりがぎゅっと苦しくなるのは。
詩先輩といるようになってから少しずつ増えてる、今まで感じたことない感覚。
「もし…詩先輩にぼくの“やってきたこと”が全部バレた時は詩先輩の目の前から消えるんで安心してください」
そう言ってぼくは席を立った。
「待てって!なんでおまえはそうやってー…」
「失礼します」
待たせてたくせに、先にカフェを後にした。
この感情や感覚にわからないことだらけで戸惑うけど、こんなぼくでもわかることもある。
こんなぼくのことを考えてくれる田村先輩。
【ありがとうございます】と言えないぼくは
田村先輩(あのひと)と一緒にいちゃいけない最低な底辺の人間なんだ。
そんな底辺な奴に好かれてる詩先輩
好きになってごめんなさい。



