「…いい匂い」

想汰くんの部屋に入るとすごくいい匂いがした。



パチッ

想汰くんが電気を付けてくれた。


「わぁ……」

想汰くんの部屋は1DKの作り。

ベッドの近くにある小さなテーブルに美味しそうなお料理が並んでいる。


「これ、全部想汰くんが作ってくれたの?」

「うん。明日は外で食べるしね。下手だけど先輩に食べてほしいなと思って」


ヤバイ…

「先輩?なに俯いてるんですか?嫌いな物あった?」


わたしは首を横に振る。


「じゃあなんでー…」

顎を持ち上げられた。


「先輩、なんで泣いてるんですか?」


「…だって、嬉し過ぎて……」

嬉し過ぎて泣いているのがバレてしまった。




「やっぱ無理」


え…!?

なにが無理!?
わたし、なにかひどいこと言ってー…


「んっ」

想汰くんの言葉に不安になって考えていると、唇に柔らかくて温かな想汰くんの唇が当たった。


少ししてゆっくりと離れていく。



「先輩が可愛いこと言うから我慢できなかったじゃないですか」

わたしの頬に手を当てながらそう言う想汰くんの優しい目に吸い込まれそうになる。



「ちゃんと先にご飯って思ってたけど…あと少しだけキスしていいですか?」

頬を撫でる手に、自分の手を添える。



「想汰くんのお料理が冷めない内…だよ?」


「わかりました」


モヤモヤしていた気持ちが晴れていく。


知りたい
彼をもっと知りたい



「わっ!すごい美味しいね!」

「よかったです。先輩、シチュー好きでしょ?」

「うん!」



わたしの勝手な欲

だけど、好きが日に日に増していって
大好きな彼をもっと知りたいと思ってしまう


神様
これは、そんなにいけないことなのでしょうか?

なんて、柄にもなく神様に聞いてみてしまうほどに。




だけど、無理強いはしたくない。

想汰くんのペースで、想汰くんが言いたいことを言って欲しい



わたしが知りたいのは過去とかそれだけじゃなくて



「あ、先輩」

「え?」

ペロッと、私の口の近くを舐めた想汰くん。


「わわ!なにして…!!」

「だってシチューが付いてたから」


はっ恥ずかしい!!


「照れてる。かわいい」


ほら、またかわいいって言った。



「想汰くんだけだよ…そんな風に言ってくれるの」


向かい合わせだった想汰くんがわたしの近くにやってくる。



「他の奴がこんなこと言うなんて、想像するだけで無理。ぼくだけの先輩なんだから」

ほら
こんな言葉にもすぐときめくわたしの心。




カチャカチャ

一緒に洗い物をしたり片付け。

ふと目に止まった、空のままの写真立て。
どうしてずっと空なんだろう。

部屋に写真はなく、写真立ても唯一それだけだ。



「手伝ってくれてありがとうございます」

「え!そんなの、当然だよ」

写真立てに気を取られて、いきなり話しかけられたことに少し驚いてしまった。


「どうかしました?」

「ううん、なにも!」

なに焦ってるんだろ
なんで写真立て空なの?って聞けばいいだけのことなのに。


「ふーん」 

なんか疑ってる目だ!
なにか違う話をー…


「想汰くん、お料理上手だね!」

「え?あぁ、ガキん時からやってたので」


あ…


「今度は笑ってる…なんなんですか、先輩」


やば、顔に出ちゃってた!?



「ごめんね。…わたしの知らなかった頃の想汰くんをほんの少し知れた気がして嬉しくなっちゃった」


ごめんね、わたしはやっぱり矛盾している

想汰くんが話したくなったらって言ったくせに
こんなに欲深くなってる


ほんの少し見えた、昔の想汰くん

それだけでこんなに嬉しいんだ



「ぼくを知りたいですか?」


次の瞬間、ふわっと浮いた自分の体。


「きゃっ!」

気づけばお姫様抱っこ状態で、ベッドまで連れてこられた。


そしてベッドに寝転び、わたしを見下ろすように上に覆い被さる想汰くん。


あれ

えっと、この状況はー・・



「なんでぼくを知りたいんですか?」


ビクッ
想汰くんがわたしの首元を指でなぞる。
その指先の動きひとつひとつに体が反応してしまう。


ちゅっ
今度は首元にキス。


「ねぇ先輩、応えて?」


カリッ

「ふっ……」

耳を甘噛みされて声が少しずつ漏れてしまう。



「応えてくれなきゃキスしません」

こうして意地悪する。




「矛盾してて…ごめんね。だけど……」

「だけど?」


わたしを見下ろす想汰くんがかっこよすぎて、見惚れてしまう。


「好き過ぎて知りたくなっちゃうの。想汰くんのこと」


恥ずかし過ぎて、どこか穴があったら入りたい。



「先輩、顔真っ赤」


自分の顔がさらに赤くなるのがわかった。



「そ、想汰くんの意地悪!もう言わないもん!!」


ぎゅう!!
すると、おもいっきり抱きしめられた。


「ごめんね?可愛過ぎて嬉し過ぎて…意地悪したくなっちゃった」



今すぐにでもキスが出来そうな距離で見つめ合う。



「じゃあ…あとで少しだけ話しますね?」


ドキンッ

そう言って優しく微笑む彼に我慢出来ず、自分からキスをした。




キスが深くなって頭がぼーっとしてきた。


しばらくして、想汰くんがわたしの頭をそっと撫でた。



「これ以上はほんとに止められなくなるから」


想汰くんに支えられてゆっくり起き上がる。



なんだか胸がぎゅっとなった。
わたし、このままシたい。

想汰くんと……


「先輩、お誕生日おめでとうございます」


「…へ……?」

なんともまぁ、呑気な気の抜けた声を出してしまった。



部屋の時計を見ると、ちょうど0時をさしていた。



「ぼくが1番目♪」

そう無邪気に言う彼が可愛過ぎて抱きついた。



「ありがとう!!嬉しい!!!」


「手出して?」


??

言われるがまま、右手を出す。



手に乗せられたのは、リボンがついている鍵。



「この部屋の合鍵です。いつでも来てください」


ドクンッ

「え…いいの?」

「はい」

「わ、わたしほんとにいつでも来ちゃうかもだよ?」

「ウェルカムです」

「朝もお昼も夜も来ちゃうかもだよ?」

「住んでもいいですよ?」


鍵を握りしめる。



「また泣いてる」



嬉し過ぎて涙が止まらない。




「先輩?明日…いや、もう今日ですね。今日のデートがメインなんですよ?」


「もう今の時点で幸せ過ぎて…これ以上もしあったらおかしくなっちゃう」


「ハードル上げないでください」




すき


だいすき




「もうひとつ欲しいものがあるんだけど…」

「なんですか?今?」



柄にもなく勇気を出して言った。



「20歳になって初めてのキス…したいです」


そう言うと、想汰くんがぶはっと声を出して笑った。



「わーバカバカ!勇気出して言ったのに!!もう言わない!!」


そっぽ向いたけど、すぐに想汰くんの方へ向かされた。



「先輩が可愛すぎるからですよ」


そして、またドキドキさせる。



「いくらでもしてあげます」



20歳になってから初めてのキスをした。





「あ、そろそろ帰りましょうか」

「えっ!?なんで!?」

「お父さん、心配させたくないし」

「大丈夫だよ!」


スマホを見せられた。



《24時半までには帰ってくるように》

わたしにはなにも送ってきてないのに、想汰くんに連絡してるお父さん。


あんのおやじ〜!!!!!!!



「またすぐ会えるし?ね?」


名残惜しい。



「うん……」


もう一度キスをして、わたしの家に向かった。