「やっぱり想汰くんももう少し一緒に暮らそうよ」
「すごい嬉しいですけど迷惑かけたくないんで」
明日から龍弥が先輩の家に泊まる。
寂しそうに俯く先輩の表情に愛しさが増してくるぼくは、やっぱりおかしいのだろうか。
「先輩…」
キスをしようと顔を近づける。
「想…」 コンコンッ
先輩の部屋のドアをノックする音にお互いハッとする。
「は‥はーい!」
「ちょっといいか?」
先輩のお父さんだ。
「詩、母さんが夕飯の支度を手伝えって呼んでるぞ」
「そ、そっか!すぐ降りるね!」
キスしそうだったさっきの余韻を引きずっているのか、まだ顔が赤くなんだか慌てている先輩。
そんな先輩も可愛くてたまらない。
先輩がリビングに降りていき、お父さんとふたりきりになった。
「これ」
お父さんが出したのは茶封筒。
「??」
意味がわからないがひとまず預かった。
でも、受け取った瞬間中身を見なくても分かった。
「…受け取れません」
「言っただろう?今回はきみが詩を助けてくれたことでの怪我だったんだ。きみが支払うお金などない」
これはぼくが詩先輩のお母さんにお世話になる生活費とし少ない額だけど渡していたお金だ。
「そんなことないです。この怪我はぼく自身がー…。それにこんなに長い間住ませてもらって食事とかまでお世話になって…」
「いいんだよ、それで。詩を大事にしてくれるならそれだけでいい」
あれ…なんだろう。
胸が少しだけ くるしい。
「そろそろ夕飯だ。きみも来なさい」
「…待ってください」
部屋を出ようとしたお父さんを止めた。
「ぼ…ぼくの両親のこととか、、ほかにも色々と…聞かないんですか?」
なにを言ってんだ、ぼくは
聞かれたって正直に応える気なんかないくせに
「きみが聞いてほしいなら聞いてやる」
「え…」
お父さんが優しく笑った。
「きみが話したくなったら話しなさい。なにも我慢することはない」
ヤバイ
「もっと大人を頼りなさい。そのために私たち大人がいるんだから」
こんなこと周りの大人に言われたことがなくて、どう返事をすればいいのかわからない。
「ぼくはー……」
「おーーい!ご飯の用意出来たよー」
先輩が1階から呼んでいる。
「行こうか」
「…はい」
〈んー、あのね。狩谷くんが好きだから知りたいのが本音。だけど、わたしのエゴで聞きたくないの。狩谷くんが話したいって思った時に話してくれたら嬉しいな〉
先輩の言葉が蘇る。
「家族…っていいですね」
「ん?なにか言ったか?」
「いえ、なにも」
ボソッと無意識に呟いてしまった言葉。
本音。
初めて感じたんだ。
・・・・・
想汰くんの部屋の前。
悩んだ結果やってきてしまった。
ギブスも無事に取れて嬉しいはずなのに
髪を乾かせない
服を着るのを手伝えない
荷物をまとめるのを一緒に出来ない
一緒に生活出来ない
ちゃんと喜べないわたしがいて
明日からこうして同じ家で暮らせないんだって思ったら
寂しくておかしくなりそう
そんなわたしって自分のことしか考えてないんだ。
ガチャッ
えっ!?
「わっ!どしたんですか!?」
ドアの前でそんなことを考えていたら、想汰くんが出てきた。



