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「…あのさ」
「ん?」
次の日の2限目、空き時間。
「なんでここにいるのかな?」
「昨日ちゃんと話しただろ?」
バンッ!!
「そういう意味じゃなくて!!」
わたしは食堂の机を叩いて立ち上がった。
「詩…うるさい」
思いっきり叫んでしまい、周りの人たちにペコペコと謝罪の礼をする。
「龍弥のせいだよ。なんで今“わたしといるのか”聞いてるの」
「一緒にいたいから」
ダメだ、会話になんない。
「龍弥、しばらく会わない間に日本語通じなくなったね」
「んじゃ今から日本語教えて♡」
自習中。
なぜか、向かいに座る龍弥。
もう少しで試験があるから頑張らないとなのに邪魔される。
「…そこ、間違ってるぞ」
「え?」
「人称代名詞、優先されるからそこじゃない」
わたしの苦手なドイツ語
「だっだけど、こっちは文末にあるよ?」
「それはmitがセットだからな。mitは前置詞な?前置詞が付くこの場合はmorgenが先に来るんだよ」
す、すごい。
「人称代名詞はセットじゃなくて単体でなら優先されて前に来るんだよ。ちなみになんで前置詞がつくかわかる?動詞が自動詞か他動詞かによってー……」
龍弥がわたしを見てフリーズをする。
「…なに?」
「すごいね!先生よりわかりやすい!!龍弥、天才だね〜!!」
わたしがハイテンションで言うと、急に顔を赤くした龍弥。
「龍弥?どしたの?」
「…うるせ。詩がわかってなさすぎ」
「わたし、今年からドイツ語取ったんだけどほんとさっぱりで。必修だから焦ってたんだよね」
肘をついてわたしを見ていた龍弥が少し黙ったあと、口を開いた。
「なら、試験まで俺がカテキョしてやろっか?」
「へ?」
「住ませてもらうお礼兼ねて」
龍弥が勉強を見てくれる、、、
「嬉しいけど、いいや」
「は?なんで?」
「龍弥も勉強のためにこっち来てるのに邪魔したくないし」
「別に邪魔とかじゃねぇよ」
「それにー…」
それに
「もし教えてもらうなら想汰くんにお願いしよっかなって思って」
想汰くんを不安にしたくない。
「なんかさ、それって詩の気持ちなの?アイツのために色々我慢してんなら…」
「違うよ」
我慢なんてしてない。
「もし逆だったらわたし…絶対嫌だもん。自分がされて嫌なことをしたくないだけ」
こんな風に考えるわたしは…重いのかもしれない。
「はぁー…変わんねぇな、やっぱり」
「え?」
龍弥がわたしの髪に触れる。
「昔と変わんない、真っ直ぐな詩ってこと」
「なっなにそれ!意味わかんないし!」
急に褒められて?思わず照れてしまった。
「詩は会いたくなかった?」
「へ?なにが…」
「俺は会いたかったよ。だからこうして会えてすげー嬉しい」
すごく嬉しそうな笑顔をするから少し驚いてしまった。
「なぁ、詩は?」
「わたしだって…会えて嬉しかったよ。まさか会えると思ってなかったし」
龍弥がジッと私を見る。
「な、なに?顔になにか付いてる?」
「んー、いーや。なにも」
なによそれ!
「てかさ、いつまでここにいるわけ?」
「詩、冷たくなったよなー」
「さっきは変わってないとか言ってたじゃん」
「訂正します。性格悪くなってます」
「はぁ!?」
会えたのはほんとに嬉しい。
まさか龍弥とこうしてまた話せるなんて。



