「わ、、わたしだって知らない狩谷くんがたくさんだよ!?」
抱きしめていた腕を少し緩めて、狩谷くんの顔を見る。
「ユ…ユキちゃんに腕組ませてたし、想汰って呼ばれてたし…」
少しずつでも、狩谷くんの奥まで行きたくて
それを塞ぎ止めてるドアをこじ開けたい。
「ズルイよ…わたしは呼びたくても緊張して呼べないのに」
それに、実感してしまう
「わたしの彼氏なのに」
自分の中にこんな嫉妬心や未だに引きずる気持ちがあったなんて
フイッ
わたしは恥ずかし過ぎて顔を伏せた。
グイッ
だけど、狩谷くんに顔を上げられてしまう。
目が合ってドキドキが増していく。
「それほんと?信じていいの?」
少し不安そうな顔でわたしを見る。
ここで逃げちゃダメだ。
「全部ほんとだよ。ユキちゃんのこと…すごく悔しかったから」
どうしたら、この気持ちが少しでもたくさん伝わるの?
「…ぼくだけの先輩?」
こんな重過ぎる発言。
ほんとなら無理。
絶対無理。
だけどなんでだろう。
「そうだよ。わたしだけの…想汰くん……だよね?」
こんな重過ぎる言葉にもドキッとしてしまう自分がいる。
そんなわたしはすでにこの沼から抜け出せないんだろうな。
前から感じてる
たまに見せる暗く怖い狩谷くんの理由は
きっと、“過去”に関係があるんだろうな。
もし、暗く閉ざして凍ってしまった心があるなら
ゆっくりでいいから溶かしてあげたい。
「当たり前だよ。ぼくの全部、先輩のもの」
そう優しく言って微笑む彼から目を逸らせなくて
「想汰くん、すきだよ」
わたしはまた沼へと一歩、足を進めた。
ーーーーーーーーーーー
想汰くんがウチに泊まるようになってもうすぐ1ヶ月になる。
そんな日曜日のお昼。
「明日病院行ってもしかしたらギブス取れるかもです」
「ほんと!?やったー!」
「まだ決まってませんよ」
リビングで想汰くんと話していた。
「詩、話しておきたいことがあるんだけど」
お母さんが話しかけてきた。
「来週からねー…」
ピンポーン・・・
お母さんの話を遮るようにインターホンが鳴った。
「わたし出るよ」
インターホンの画面を見て玄関まで走る。
「先輩…?」
ガチャッ
「よっ」
急いだ原因は
「龍弥…」
なんで龍弥がウチに?
「あら龍弥くん。ほんと久しぶりね。ちょうど詩たちに話そうとしてたとこなのよ」
お母さんと想汰くんも玄関にやってきた。
「おばさん、お久しぶりです。この度はお世話になります」
は・・・??
「さっきの話の続きだけどね、来週から1ヶ月ほど龍弥くんがウチに泊まることになったから」
なにそれ!?
急いで龍弥の方へ向き直す。
「そういうこと。しばらくよろしね♪」
意味わかんないし、なんだか…不安しかない。。。



