「わ〜面白そうな展開になってるじゃん」


なぜ、ぼくはまたこの人といるのか。


「昔の幼なじみねぇ〜…俺も会ってみたいな」

「会えるんじゃないすか?なんかこの大学の教授と仲良さそうだったんで」

そして、アイツとのことを話してしまってるのか。



「狩谷は大丈夫なん?」

「なにがですか?」

「ヤキモチ妬きまくって大変じゃねーの?」


絶対…バカにしてんな、田村先輩(このひと)は。



「もう行きます」

そう言って立ち上がったぼくを見て、田村先輩も急いでタバコの火を消す。


「悪かったって」

「別になにも気にしてませんよ。次の授業向かうだけです。聞いてくれてありがとうございます」


こんな風に人に話すことなんてなかったのにな。


なんか不思議。



「先輩の言う通り、気が狂いそうになってますよ。じゃーね」


ぼくはその場を後にした。




「…ったく……大丈夫かよ、アイツら」




ーーーーーーーーーーーー


「あれ…?狩谷くん、自分でドライヤーしたの?」

夜、詩先輩の部屋にやってきた。

「はい。いつまでも先輩に甘えてちゃいけないなと思って」


少し悲しそうな顔をした詩先輩。

その表情すら可愛く見えてしまうぼくは、だいぶ重症なんだろう。

いつもしてもらっていたドライヤーを今日は頼まなかった。
ぼくの小さな抵抗。
しょうもない抵抗。



ふわっ

「このへん半乾きだよ!風邪引くからもう一回ドライヤーしよ」


ぼくの髪に触れるために少し背伸びした先輩。
そして近づく顔。


我慢出来ない。




「んっ…!」

先輩の後頭部をグッとこっちに寄せてキスをした。


「先輩、もっと口開けて?」

「えっ…と……」

「舌、出して?」

先輩の顔が一気に赤くなる。


かわいい。



「よく出来ました」

一生懸命キスに応えてくれる。


とろんとした目。
赤い頬。
ぼくを抱きしめる腕。


全部ぼくのもの。
こんな先輩を見ていいのはぼくだけ。



「狩谷く…くるし……」

そっと唇を離す。



「先輩、まだして欲しそうな顔してるけど?」

「…!!バッバカ!!ここ家だよ!!狩谷くんのバカバカ!!」


パシッ
ぼくをポコポコ叩く腕を掴んだ。




「ねぇ、いつまで“狩谷くん”なんですか?」

「え?」


アイツのことは“龍弥”って呼んでるくせに。



「ほかの男の名前ずっと呼ばれて、ぼくは苗字なんて…頭おかしくなりそ」






ドクンッ

狩谷くんのわたしを見る目、そして言葉にゾクっとした。


少し冷たく感じる目。
怒ってる…んだろうけど、怒ってる目とかじゃなくて
なんて言うのかな、、、
誰も寄せ付けないような目。

たまに見せるその目や表情。



グイッ

「きゃっ」

掴まれていた腕を引っ張られてベッドに倒れた。
そしてベッドに腰掛けてわたしを見下ろす狩谷くん。


「当たり前のように触らせちゃってさ」

「ひゃっ……」

首を指でなぞられてビクッとなる。


「なんだろ…この気持ち」

「狩谷…くん?」


「ぼくの知らない先輩をアイツが知ってると思ったら…気が狂いそうになる」


そう言った狩谷くんの目はすごく悲しそうで
わたしはどうしたらいいかわからなくて



ぎゅうっ

身体を起こして、力いっぱい抱きしめた。