「大丈夫か?ぼーっとしてっけど」
「あ…すみません」
忘れたいのに忘れられない記憶。
嫌なことを思い出してしまった。
「…あのさ、俺よくわかんねぇけど」
タバコを消して田村が立ち上がった。
「少なくとも俺は友達だと思ってるから。それでよくね?」
なんだよそれ…
「…先輩のこと、好きなくせに」
ぼくから奪おうとしてるくせに。
「へ?…あぁ、前に言ったこと?それはまだおまえのこと、よく知ってなかったからなぁ〜」
この人のことが未だに掴めない。
「今はおまえも桜井さんも、俺にとって友達だよ」
なんなんだよ。
「意味わかんねぇっす…」
「あっそ。またわかったら教えて♪」
自分の意見を押し付けてくることもなく、ただマイペースにぼくのそばにいる田村。
田村…
「田村……先輩」
「ん?」
うわっ無意識に口に出してしまった。
「いや、えっと……」
なんとか誤魔化さないと
「ケンカ強いんですか?」
正直全然興味のないことを聞いてしまった。
「へ?あぁ、強いってわけじゃねぇけど高校まで空手してたから」
「あ、そうなんすね」
「狩谷は?おまえ、ケンカ弱くねぇだろ?」
「強くもないと思いますが。見様見真似ですね」
「ふーん」
田村先輩…
変なひと。
ーーーーーーーーーー
「狩谷くーん!」
「先輩、お疲れ様です」
今日は授業がたくさんある日だったよね、長いことお疲れ様。
「わたし、今からバイトだから家でゆっくりしててね」
「迎えに行きます」
「ほんと?わーい」
信じられないぐらい、かわいい。
写真撮って1日中眺めてたいな。
「お母さんがね、今日はハンバーグだよって。お母さんの作るハンバーグはわたしのイチオシでねー……」
隣で歩きながら嬉しそうに話す先輩が、愛おしくてたまらない。
「それでね、お母さんがー…「先輩」
なんだろう、今無性に言いたくなった。
「好きです」
急に言ったからか、目をパチクリさせてる先輩。
ぼくね
「誰かと一緒に寝るの、何年振りかわかんないぐらいで……隣に人がいるってすげー安心出来ますね。なんか…あったかい」
「狩谷…くん」
こんな話したって先輩困らすだけだし、そもそも面白い話でもないし
なのに話してしまう。
こんなのも初めて。
「隣にいてくれたのが詩先輩だから、安心出来たんだと思います。ありがとうございます」
正直、母さんとも父さんとも一緒に寝た記憶がない。
記憶にあるのは・・・
「狩谷くん」
ごめんね、先輩。
こんな話したって困らせるだけなのに
先輩がぼくの手を握った。
「こんな言い方間違ってるかもだけど…なんか嬉しい」
「え…?」
「狩谷くんのことがまたひとつ知れたって思えて嬉しいの」
先輩、、、
バイト先までの道のり。
ずっと着かなければいいのに。
そう願って手を繋いで歩く。
隣で歩く先輩を見る。
「ねぇ先ぱー…」
「詩???」
ぼくの声を遮るように聞こえた男の声。
“詩”って言ったよな?
前を向くと、見たことない男が立っていた。
「えっ…と」
先輩も誰かわからないのか戸惑っている。
「忘れるのも仕方ないか。10年振りだしな」
そう言いながら男が近づいてくる。
そしてぼくたちの前にやってきた。
「龍弥(りゅうや)だよ。久しぶりだね、詩」
「りゅう…や…」
ふーん
また、排除リストが出来た。



