「どうしても授業を受けたい先生がいたの。それが1番かな」

「へぇ〜なんて先生?」



「元村(もとむら)先生」

元村先生


うん、もちろん知ってるよ。
先輩が高2の時に、カフェで嬉しそうに話してたの聞いたから。



「そうなんですね。家から大学が近くてよかったですね」

「ほんとに。中2になる前に引っ越してきたんだけどね」

「へぇ〜そうなんだ」


どこから?とは、あえて聞かない。


「そういえば、狩谷くんはどこの高校だったの?どうしてこの大学に?」


「隣町の高校です。ぼくも勉強したいことがあったので」

先輩がいるから
ただ、それだけだよ。


「そっかー。じゃあご両親は今もそこに?」



先輩のお父さん、詩先輩には言ってないんだ。



「親は…いません」


先輩の表情が一気に強張った。



これ以上は聞かれても、今は答える気はない。
どうせぼくの生い立ちを知ったらみんな引くから


先輩も知ればいずれはーー・・・



「そっか…。ウチが近くでよかった!なにかあったら絶対すぐに言ってね!」


へ……??


「先輩…?」


なに、聞いてこないの?

今まで知り合ったやつは根掘り葉掘り聞いてきた。
そして軽く答えただけで、みんな離れてくんだ。


だから、人は嫌なんだ。
信用出来ない。



「どしたの?」


ハッと我にかえる。


「いや…それ以上聞かないんだと思って…」

聞いてほしくないくせに、なに言ってんだぼくは。



「んー、あのね。狩谷くんが好きだから知りたいのが本音。だけど、わたしのエゴで聞きたくないの。狩谷くんが話したいって思った時に話してくれたら嬉しいな」



やっぱり 先輩は綺麗で真っ白で

ぼくにはこの人しかいない。



だけど、ぼくのしてきたこと
ほんとのぼくを知れば



必ず離れる。



「ね?」

そんな可愛く笑う顔も見れなくなる。



先輩のそばにいることを願って
そのためになんでもしてきたのに


ぼくは今臆病になってる。



「先輩って…変っすね」

「なによそれー」


このシアワセをなくしたくなくて、怖いんだ。


きっとこの恐怖が
ぼくのしてきたことへの報い。



「そろそろ寝よっか」


「はい」


離れたくない。



先輩の部屋の前に着いた。


「じゃあおやすみ」

ドアを開けて入ろうとした先輩を押して、ぼくも部屋に入った。



「ちょっ…!狩谷くっ」

先輩の口を手で塞いだ。


「しーっ。お母さんたち起きちゃいますよ?」


そばにいたい。


「なにもしないから…一緒に寝てもいいですか?」


そばにいてほしい。


先輩が目を見開いてこっちを見る。
そんな顔も可愛い。



「ダメ…?」



すると、先輩がぼくの手をそっと退けた。


そして背伸びをしてぼくの耳元で

「…キ…キスはしても…いいよ?」

なんて、囁く。


すごく顔を真っ赤にしながら。



「…煽っちゃダメって言ってるのに」

「んっー…」



なんでそんなかわいいの?
ぼくが先輩を困らせたいのに
ぼくが先輩に振り回されてる。

でも、それがすごく心地良い。


「狩谷く…くるし…」

「煽ったのは先輩だよ?ぼくは全然足りない」


涙目でぼくを見る。


ぞくっ・・・
その表情に余計止まらなくなる。


「かわいい…」

この時間がずっと続けばいいのに
そう願いながら、呆れるほどキスをした。