「バスタオル、これ使ってね」

「ありがとうございます」


「待って」
脱衣所から出ようとしたら狩谷くんに止められた。


「先輩も一緒に入る?」


な…!!!


「バッバカ!!!入るわけないでしょ!!」

「やっぱり〜」


バンッ!と思いっきりドアを閉めた。


またからかわれた。
からかわれてるってわかってるのに、ドキドキが収まらない。


もうこんな生活を始めて2週間が経とうとしている。
あれから狩谷くんは腕が治るまでわたしの家で暮らすことになった。

そしてその間、ずっとこの生活に慣れずにドキドキしっぱなしのわたし。





コンコンッ

部屋で本を読んでいると


「はい」

「ぼくだけど…」


狩谷くんがやってきた。


ガチャッ

「髪乾かす?」

「いつもすみません」


狩谷くんの髪を乾かす。
これも日課になった。



「明日病院だよね?」

「はい。バイト入れなくて代わってもらってばかりですみません」

「そんなの気にしないで!早く治ってほしいね」

「先輩、優しい」 

鏡越しで目を合わせて喋る。
それだけでも、毎日ドキドキしてる。


顔の傷などはほとんどひいて、後は腕のヒビのみ。



「あれからなにもない?もし、またアイツらが来たらちゃんと言ってね!?」

「大丈夫ですよ。ありがとうございます」


もう、こんな危険なことはさせない。
わたしが理由ならなおさら。



カチッ
ドライヤーを切った。


狩谷くんに聞きたいことがあった。


「ねぇ狩谷くん」

「はい」

「その…」


聞いていいかな?
でも、狩谷くん嫌な気持ちにさせちゃうかな。


「どうしたの?先輩」


…聞いちゃえ!!


「この怪我させたのって…小田原って人たちだよね?ユキちゃんの知り合いなんでしょ?」


狩谷くんの表情が少し強張ったように見えた。


「…うん。それがどうしたんですか?」


「えっと…これから大丈夫かなと思って。。狩谷くん、ユキちゃんと付き合ってなかったんでしょ?でも、もしまだ誤解されてたりしたらなにされるかわからないし…」

心配で。。


「大丈夫ですよ。ユキにもハッキリ言いましたし」

「そ、そっか…。でも、わたしが前に庇ったからあの人たち仕返しをしようともしてたんだよね?わたしがやっぱり迷惑かけて…」

狩谷くんが立ち上がってわたしの頭を撫でた。


「ぼくが悪いんです。だから自分で後始末つけに行っただけだから、先輩はなにも悪くないんです。ね?」


後始末・・?



「ところで先輩。明後日レポート提出とか言ってませんでした?大丈夫なんですか?」


あ″ッッ!!!!!

「そうだった!!ヤバイ!!じゃあ狩谷くん、また明日ね!おやすみ!!」

「はい、おやすみなさい」


また明日ねって言うけど、同じ家の中。
部屋の外に出れば、すぐ会える距離。



夜中2時。

「あーやっと終わった。危なかった」

なにか、スッキリするもの飲みたいなぁ。


わたしは1階のリビングに向かった。


階段をおりていると

「先輩?」

後ろから声がした。


「狩谷くん。起きてたの?」

「はい。トイレ行こうかと。先輩は?」

「レポートやっと終わってね。なにか飲みたいなぁと思って」

「おー。お疲れ様です。じゃあぼくにもなにか入れてください」



夜中にこうして一緒に話してるの、なんか不思議な感じ。


「ここの大学って通年で、ちょっと珍しいですよね」

「あー、そういえばそうだね」


「そういえば先輩ってどうしてあの大学を選んだんですか?」


「え?なんで急に…」

「先輩のこともっと知りたいなと思って」


そう言った狩谷くんの表情がかっこよくて優しくて、わたしは少し見惚れてしまった。