・・・・・・・・・

ゴフォッ!!!!

リビングにみんなでいると、母から驚きの言葉が聞こえた。


「あの…お母さん今なんて?」

驚き過ぎて、飲んでいたアイスコーヒーを吹き出してしまった。


「先輩、早くタオルで拭かなきゃ」

「だ、大丈夫だから」

いや、狩谷くん
なんでそんな冷静なんだ!?



「だーかーら!このまま狩谷くんウチに泊まっていけば?着替えとかも大変でしょ?夫に手伝わせるから」


ちょっと待って!!


「いや、それはそうだけど…でも泊まるのはちょっと…」

いきなりお泊まりなんて…
お父さん絶対反対するはず!


「いいんじゃないか、それで」

お父さんまで!?


「じゃあ決まりね!狩谷くん、着替え取りに帰る?詩も一緒に行かせるわ」

「甘えてばかりですみません。ありがとうございます」


「ほら!詩、なにぼーっと突っ立ってんの!狩谷くんについて行きなさい!」


・・・なんなんだ、ウチの両親は。




「狩谷くん、なんか…ほんとごめんね。わたしのせいでこんな大怪我までさせたのにウチの親が色々勝手に決めて…」

「なんで先輩が謝んの?ぼく、すげー嬉しいですよ。先輩と一緒にいれて」

そう言ってすごく可愛く笑う狩谷くん。
胸がきゅんとした。


「家が近くてよかったね」

「はい」


一緒に狩谷くんの家に入る。


「ちょっと待っててください。すぐ荷物まとめます」


チラッと部屋を見渡す。

前も思ったけど…、狩谷くんの部屋ってすごくシンプルというか…物が最低限というか、少ないというか。

そんな部屋だからか余計に目立つのが、あの写真の入っていない写真立て。


なんで写真入れないんだろう。


「先輩お待たせしました」

そんなことを考えていると狩谷くんが隣の部屋から鞄を持ってやってきた。


「貸して。わたし持つよ」

「先輩にそんなことさせれません」

「いや、怪我人に持たせられないから!わたしついてきた意味ないし」


鞄を受け取るために出していた腕を引っ張られた。


「きゃっ」

気づけば狩谷くんの腕の中。
一気にドキドキする。


「意味ありますから。ぼくが先輩といれてるじゃないですか」


その言葉に余計ドキドキが増していく。



「ぼく、ほんとは先輩と四六時中一緒にいたいんですよ?授業だって叶うなら全部一緒がいい。片時も離れたくないんです」

「狩谷くん…」


「ぼくのそばから離れられないように縛りつけたいぐらいに」


きっと普通なら相当重く感じる言葉。
なのに不思議。

狩谷くんに見つめられながら言われると、そんな重い言葉さえ甘く聞こえるんだから。
そんなわたしは重症なのだろう。


「…離れないから安心して」

「ほんとに?」

「うん」


あ、優しく笑った…


「約束ですよー…」

そして優しいキスをしてくれた。



ーーーーーーーーーーー


「じゃあ狩谷くんはここで寝てね」

「ありがとうございます」


来客用にある部屋を狩谷くんに使ってもらうことにした。


部屋を見渡している狩谷くん。


「どうかした?」

「え?あ…いえ、先輩の家広いなぁと思って」

「えぇ!?そ、そうかな!?」

「うん、それに…あったかい」


あったかい??


「あ、まだ暑いもんね?冷房強めよっか?」



「ぶはっ!!」

急に狩谷くんが笑いだした。



「相変わらず鈍いというか、天然なところあるんだから」


???
狩谷くんの言っている意味がわからない。


あ!!


「さっきね田村くんから連絡があったよ。狩谷くん、大丈夫?って。明日よかったらまた話してあげー…」


ダンッ!!


痛ッ…

え、、、
あれ???

狩谷くんに手首を掴まれて壁の方へ押された。
そのせいで壁に背中を打ちつけてしまい、軽い痛みが走る。


ギリーッ
でも痛く感じるのは背中よりも掴まれている左手首。



「狩谷くん…どうしたの!?」

わたしを見る目が怖い。
なんて言うんだろう
冷たいというか、なにも映してないような…というか。。
引きずり込まれそうな深い闇が見えるような。


「ねぇ…わかってると思うけど浮気とかありえないからね?」


は…い……??


「あの人の話をするなんて、先輩余裕ですね」


なにを言っているのかわからない。


「ほんとに鎖つけて欲しいわけ?」


掴まれていた手首は解放されたけど、その代わり首を指でゆっくりなぞられる。


ビクッとなる身体。


「ぼくのものって印、つけまくろっか」


ドクンッ


怖いはずなのに
なのに言葉、そして目に吸い込まれそうになる。


わたしは   おかしい



「先輩覚えてて?どんな手を使っても、先輩をもうぼくのそばから逃がさないから」


鼓動がすごい。
これは恐怖からなのか
それとも
この重すぎる脅迫めいた言葉にときめいてしまっているからなのか


「なにも言わないってことはわかったってことだよね?」


なにか言いたいのに言葉が出てこない。


ひゅっ……
速すぎる鼓動のせいで息がしづらくなる。



狩谷くんの顔がわたしの首元に近づく。
わたしはぎゅっと目を閉じた。



「・・・・・・」

少しして目を開くと、狩谷くんがわたしから離れていた。

なにも、、されてない?



「…先輩のお母さんたちに悪いですから」


ダメだ、さっきから狩谷くんの言動が理解出来ない。



「すみませんでした。おやすみなさい」


狩谷くんはこっちに振り向くことなくそう言った。



「…おやすみなさい」


わたしは部屋をあとにした。