「先輩!?」
狩谷くんがわたしに気づいて出てきてくれた。
「レジは!?対応大丈夫!??」
「はい。もう終わりましたから」
女子高生たちはいそいそとお店を出て行った。
「体調は大丈夫ですか?」
「うん!心配かけてごめんね」
「よかった」
ほら
こんな無邪気に笑うから、わたしは目が離せなくなる。
「…狩谷くん、上がるまで待ってていい?」
わたしがこんなに好きなことをちゃんと伝えたい。
「嬉しいですけど…まだしばらくかかるし先帰っててください」
え…?
「心配だから。待たせてる間。ね?」
ちょっと勇気出したのに……
狩谷くんは心配してくれてるのに、少ししょげてしまう自分が情けない。
ひそっ
「そんなにぼくといたいんですか?」
ドキッ
耳元で囁かれて一気に顔が熱くなる。
そしてわたしを意地悪な笑顔で見る狩谷くん。
振り回されてばかり。
「ちっ違うし!もう帰るから」
ここで意地を張るのがわたしのいけないとこ。
こんな人、可愛くないよね。
「先輩の家の前着いたら連絡するから会ってください」
そんなわたしの心を見透かしているような狩谷くんのひと言。
「…待ってる!」
わたしの言葉を聞いて嬉しそうに笑う顔。
抱きしめたくなる。
束縛が強めだって
それは好きでいてくれているからで
わたしはそんな狩谷くんも含めて好きになってる。
きっと好きなのはわたしの方って思ってしまうほどに。
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「まぁ、詩がそれで幸せならいいけど」
「わたしもヤキモチ妬いちゃうもん、狩谷くんに」
「はいはい。ラブラブってことね」
大学で空き時間に亜紀と喋っていた。
「んじゃ、あたし次の移動行くわ」
「頑張ってね〜」
ひとりで勉強して時間を潰していると、人影を感じた。
顔を上げると
「え…あなた……」
「桜井さんですよね?ちょっといいですか?」
ユキちゃんだ…!
ユキちゃんについて行くと、人気(ひとけ)のない校舎裏にやってきてしまった。
なんか…漫画とかでこんなとこに呼び出しされてるの何度も見たことあるなー。
なんて、呑気に考える余裕がこの時はまだあった。
ユキちゃんがこっちに振り向いた。
「単刀直入に聞くけど…あんた想汰と付き合ってるの?」
さっきの敬語はどこへやら。
タメ口で、しかも結構怒ってる。
「そうだけど…」
バンッ!
ユキちゃんは持っていたバッグを地面に叩きつけた。
「信じらんない!!こんなおばさんより、絶対ユキの方が可愛いのに!!!!!」
がーーーん
お、おばさん……
ひとつしか違わないのにおばさんって言われた……
「どうやって想汰のことたぶらかしたのよ!」
「たぶらかしてなんかないよ」
「嘘言わないで!そうじゃなきゃ、想汰はあんたなんかよりユキを選ぶはずだもん!」
イラッ…
「…さっきから“想汰”想汰って馴れ馴れしくない?わたしの彼氏なんだから」
腹が立って嫌な言い方をしてしまった。
ザッ
ユキちゃんがわたしに近づいた。
「あんたさえいなければ、想汰はユキのものだったのに!!!」
そう言ってユキちゃんが手を振り上げた。
わたしは身体が動かず、咄嗟に目を閉じた。



