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「狩谷くん、元気になったんだね!よかったー!」

「はい。夕方こっちに来るみたいです」

「えっ!もしかして…桜井さんを迎えにとか!?」


また熱くなるわたしの顔。

いや、でも冷静になれわたし。


「昨日休んだことを店長に謝りたいんじゃないでしょうか?」

そう、きっとそうだ。
わたしはあくまで“ついで”だ。


「狩谷くん、律儀だな〜」


受けてしまうかもしれないショックを最小限にしたくて、色んな理由を自分に言い聞かせる。



・・・・

「店長、昨日は急な休みで迷惑をかけて大変申し訳ありませんでした」

夕方、わたしの上がる時間に合わせてほんとに来てくれた。
そして店長に昨日のお休みのことをきちんと謝っている。


やっぱりちゃんと謝りたかったんだね。
狩谷くんのこういう真面目なとこ、好きだなー。


「ほんと気にしないで!元気になってよかったよー!!」

すっかりいつもの狩谷くんだ。



「先輩、帰りましょっか」

「…うん」


なんだか緊張する帰り道。



「もうすぐ夏休み終わりますね」

「そうだね」

意外と普通の会話で安心した。



「ねぇ先輩、昨日の話だけど」

ドキッ


「ぼくは先輩が好きです。先輩は?」


な、なんちゅーど直球に聞いてくるんだ!


「え…わ、、わたしは…」


どうしたら…


「ユキちゃん…ユキちゃんって子と付き合ってたでしょ!?別れたの?ってか…付き合ってたのにわたしにあんな態度取るとかおかしくない!?」


「あんな態度って?」


えーーーっと…


「て、手を繋いだり…一緒に帰ったり……」

「だって先輩が好きだから一緒に帰りたいし手も繋ぎたいじゃないですか」


そんな当然のように言われましても・・・


「てかユキとぼくは付き合ってないですよ。仲良くはしてましたし、ユキはぼくに好きって言ってきてましたけどそれに対してぼくは全く応えてません」


え、そうなの?


「疑問、ちょっとは解決出来ました?」


家の近所の路地。
そこで立ち止まって狩谷くんをジッと見る。


付き合ってなかったとしても、あの態度はユキちゃんに誤解させると思う…

まさか小悪魔的な!!??
しかも天然でしてる!!??


そんなのわたしの手に負えない。。



「先輩…なに漫画みたいにガクーッてなってんの」


振り回される、狩谷くんの言動や行動のひとつひとつに。


それは好きだから。



「それで、先輩の気持ちは?」

「も…もし、Noと言ったら…?」

我ながらズルイ質問。
狩谷くんの出方を伺ってる。



「先輩の前から消えます」


え……?


「大学もやめます。先輩と一緒にいれないなら、通う意味もここに住む意味もなにもありませんから」


な、なんちゅーことを…!!


「そんな理由で簡単に大学やめるとか言うの!?おかしいよ!」

そもそもはわたしの質問のせいのくせに、それを棚に上げて怒ってしまった。



「そんな理由…?」


グイッ

「痛ッ…」

狩谷くんに腕を掴まれて、壁に追い詰められた。



「ぼくにとっては、それぐらい大きな理由なんです。先輩と一緒じゃない未来なんていらない」


なにを言って…


「今決めて。先輩、ぼくのものになる?それとも、ぼくが目の前から消えよっか?」


前も感じた、強引な…少し怖く感じる狩谷くんだ。



怖いくせにわたしは逃げることが出来ない。
むしろ、身動きがさらに取れなくなってしまう。

目が離せない。




わたしは……



「…すき」



優しく笑う狩谷くん。


ひそっ
「やっと…ぼくのもの」

小声すぎてなんて言ったか聞き取れなかった。



「今なんて…」

「秘密」


そう言って狩谷くんはわたしにキスをした。


そのキスが優しくて温かくて、離れるなんて無理な話。






わたしは


とんでもない人を好きになってしまったんだ。