ぼくはゆっくり起き上がり、台所近くに立ってる先輩を後ろから抱きしめた。



「か、狩谷くん!?」


もう我慢出来ない


「先輩、好き」


「…狩谷くん、まだ熱あるんじゃない!?」


そうかもしれない。


「そうだとしたら?好きと関係ありますか?」

なにも言わない先輩。



「好きです。ぼくのものになってよ」


先輩がぼくの腕を掴んだ。
その手が少し震えてる。


「…からかわないでよ」

「え…?」

次の瞬間、抱きしめてた腕をはらわれた。
そしてこっちを向く先輩。


「狩谷くん、モテるしわたしなんか相手にしなくていいでしょ…?そもそもユキちゃんって彼女がいながらわたしにあんな風に優しくするのも意味わかんない。誰にでもあんな態度取ってたら誤解されるよ?わたしは…」


え、先輩それって…


「わたしは…そんなの我慢出来ない」


鞄を持って先輩は出て行った。



ボスッ

ベッドにダイブする。
計画にないタイミングで告白して
なにやってんだかぼくは。


なのにヤバ。
顔がニヤける。


先輩、それってヤキモチじゃない?
ぼくの思惑通りにヤキモチ妬いてくれる。
あー、なんでそんな可愛いの。
たまんない。


可愛い顔、すべすべな肌、綺麗な声
そして、こんな可愛いヤキモチまで妬いてくるなんて。


先輩はぼくをおかしくする。



————————————

逃げるように部屋を出てきてしまった。


〔好き〕って…

ほんと??


わたしなんかを??


熱が出てるって聞いて心配でたまらなかった。
看病してる時にわたしに甘えてくれて、すごく嬉しかった。
好きって言ってくれて…ビックリした。

それと同時にずっとモヤモヤしてた気持ちの原因がわかった。



狩谷くんがユキちゃんと付き合ってたのに、わたしに接してた態度に違和感を感じてるんだ。


違和感・・・


ううん、違う。


単なるヤキモチだ。


好きだって認めたくなくて…弟みたいって思いたいんだ。


ブワッ
自分の顔がすごく熱くなった。



わたし、狩谷くんのことが好きなんだ。




次の日の朝。
勢いで帰っちゃったけど、熱大丈夫だったかな。

わたしって中途半端だなー。
看病も最後までやりきらないなんて。


パン屋さんのバイトに行く前に、コンビニでゼリーとかを買って狩谷くんの部屋の前にやってきた。


カサッ…
会うのはなんだか気まずいから、袋をドアノブにかけた。


早く元気になりますように。



エレベーターに向かって歩いていると、ドアの開く音が聞こえた。


「先輩!」

ドキンッ


「狩谷くん…」


「また買ってきてくれたんですか。ありがとうございます」

袋を手に取って中身を見てくれた。
そして、わたしに近づいてくる。


「なにも言わずに行かないでください」


だってなにを話したら…


「先輩、今からバイトですよね?」

「う、うん」

「迎えに行きます」


わっ…
今の笑顔…心臓が射抜かれた感覚。


「あの…熱は……?」

「先輩のおかげでもうすっかり元気です」


そっか…

「よかったぁ……」


私の頬に触れる狩谷くんの手。


「バイト行かしたくない。ぼくのそばにいてよ先輩」



ドクンドクンッ

鼓動がまた速くなる。
息がしづらくなるほどに。



「バ…バイトだから……!」 


「はい、我慢します」
そう言って狩谷くんはパッと手を離した。


が、我慢って!!??



「ありがとうございます、先輩。夕方会えるの楽しみにしてます」


どれだけわたしの心をかき乱すの?
鵜呑みにしちゃダメってわかってるのに。