「ご飯、うまいっす」

「あ…そう?ありがとう」

嬉しそうに食べてくれる狩谷くんを見ていたら、もうこの前のことはいいかって思ってしまう。

それよりも、こうして笑ってくれたりする方が嬉しくて心が満たされる感じがする。



ドカーーーンッ

「ひゃっ!!」

ものすごい雷の音がした。


「おばさん、大丈夫ですかね」

「ほんとに…」

心配でスマホを鞄から出そうとした瞬間


ふっ・・・・・


停電!!??

ガタッ
「痛ッ!!」

なにかで足の小指をぶつけた。


「先輩、動いちゃダメです」

「狩谷くんは大丈夫?」

「はい」


少しだけ目が暗さに慣れてきた時
腕にぬくもりを感じた。


「先輩、見っけ」


ドキッ

最近少しずつ敬語にタメ口が混ざってきてる。
なんだか距離が前より縮まったような気がして嬉しく感じる。



「わ、あの…」

「動いちゃダメですって。またどっかぶつけますよ」

 いや、でもこの状況はもっと緊張するから!

やっぱり動こうとした時、バランスを崩してしまった。


「きゃっ」
「うわっ」


ゴンッ…

あれ、なんか鈍い音がした。

でもわたしはどこも痛くない。


それに、わたし…もしかして狩谷くんを下敷きにしてしまってる…??


「いてー…先輩、大丈夫ですか?」

「ご、ごめんね。わたしのせいで」

「大丈夫です。頭を床に打っただけですから」


ひえーーっ

「それがダメなんだよ。ほんとごめん…きゃっ」

気づいたら抱きしめられていた。


「じゃあ、これでチャラにしてあげます」

「ちょっちょっと…!」


距離感がやっぱりおかしい!!


「狩谷くん、離して…」

「いやです」

停電のせいで空調も止まり、さらにこの状況のせいでより汗が吹き出す。


「わ、わたし汗臭いから」

スンッ
狩谷くんがわたしを嗅ぐ。


「いい匂いですよ。ぼく、先輩の匂い好きです」


真っ暗な空間のせいで
声、そして触れ合う身体に敏感になる。


「そんなこと…」

「ねぇ先輩、まだぼくって弟ですか?」


ドクンッ

「それはそうに決まって……」

「じゃあ…弟じゃなくなるまでこうしてましょっか」


へ!?

「なに言ってんの!?」

「だって異性に感じないってことでしょ?」


そんなこと…ない……


「どうしたらぼくのこと…異性に見てくれるのかな?」

「…ひゃっ」

耳に触れられた。
暗くてなにも見えないから、ドキドキがものすごい。


「先輩って弟にこんな声出すの?」


カリッ

「ん…」

そして耳を噛まれた。



「ねぇ、早く教えてください」


わたしの知ってる狩谷くんじゃない。

弟みたいな可愛くて優しい狩谷くんじゃない。



ふにっ
唇に触れられた。


「じゃなきゃ、またキスしますよ?答えてくれるまでやめないからね?」


こんな…危険な子じゃない。


「狩谷くん…わたし……」



ヴーッヴーッヴーッ


タイミングよく?スマホが鳴った。


狩谷くんが手を離した。


「危ないからぼくが取りに行きます」


まだ全身がドキドキしてる。



「先輩のスマホでした」

「あ…ありがとう」
お母さんからの着信だったようだ。


すぐかけ直すと、停電を心配しての電話だった。


「大丈夫だよ。気をつけて帰ってきてね」


ある意味全然大丈夫じゃないけど。


スマホを切って、あることに気づく。


カチッ

「うわっ眩しっ」

わたしがたまたまスマホを向けた側に狩谷くんがいた。


「ごめんごめん。でもこれに気づかなかった」

スマホの懐中電灯機能。


「狩谷くんの顔見えたーっ」



グイッ

「きゃっ」

カツンッ

スマホを持ってた腕を引っ張られたせいで、スマホを床に落としてしまった。


「なんであんなことしたのに…そうやって笑えんの?」


床に落ちたスマホの微かな灯りで、ぼやっと見える狩谷くんの顔。


「はぁー…ムカつくぐらい先輩がわかんねぇ……」

そう言ってわたしの肩に顔を埋める狩谷くん。


ヤバイ。
鼓動の速さが異常で、汗も吹き出す。


わたしだって…

「わ、わたしだって…狩谷くんの…」


パッ

電気が復旧したようで、部屋が明るくなった。



電気がついたおかげで、今の状況が鮮明にわかった。
近い、近すぎる。

肩に埋めてた顔を上げて、わたしを見る狩谷くん。


いや、やっぱり近すぎる。


「ねぇ、早くぼくを男として見てください」


ドクンッ

そして、またわたしを抱きしめる。


「ちょっと…離して……」

狩谷くんこそ、一体どういうつもりでこんなこと…




「ぼく以外の男を消せば、ぼくを見てくれる?」


ゾクッ…

え、今なんて……


「ふっ……なんてね。先輩はすぐ真に受けるんだから」


なんだろ…
今一瞬……声のトーンも含めて
すごく怖くなった。


ガチャッ

「遅くなってごめんねー!」

お母さんたちが帰ってきた。

わたしは急いで狩谷くんから離れる。



「なんだ、きみは」

「夜分にお邪魔してます。詩先輩の後輩の狩谷想汰と言います」

「お父さん、帰り道に説明したじゃない。詩の彼氏さんだって」

「いや違うから!」


そこからお父さんに説明するのにだいぶかかったのは、言うまでもない。